ある日の夕食。
仕事帰りにすき家でテイクアウトしたチーズ牛丼を、食卓に置いた瞬間だった。
中学生の息子が、その容器に向かってこう言った。
「……おかえり、ママ」
俺は思わず固まった。
その声は、優しく、切なげで、まるで本物の母親と会話してるようだった。
だけど、そこにあるのは発泡スチロールの容器に入った、ただの牛丼だ。
「冗談はやめろ」
俺は低い声でそう言った。
けれど息子は、こちらを見ようともしなかった。
「冗談なんかじゃないよ」
それを見つめるまなざしは、まるで愛おしいものを見るようだった。
「だって、パパがママのこと殴った日、ママこのチーズ牛丼みたいな匂いしてたじゃん」
息が止まりそうになった。
そんな記憶、もうとっくに忘れたと思っていたのに。
「ママ、あの時ずっと泣いてたよ。台所で、ずっと……牛丼、冷めてたのに」
俺は椅子に崩れ落ちた。
息子の声が、容赦なく刺さる。
「だから、これがママなんだ。これだけが、今もママの味がするんだ」
その瞬間、俺は初めて知った。
湯気すら出てないその塊に、息子は心を繋ぎとめていた。
俺は……何を壊したんだ。
息子は微笑んだ。
そして、そっと牛丼を抱きしめた。
俺は、もう声をかけることができなかった。
久しぶりだけど大分シリアスになったな 前は大体チギュア!!って化物に変身してたのに