2025-07-02

息子がチー牛を妻だと言い始めた

ある日の夕食。

仕事帰りにすき家テイクアウトしたチーズ牛丼を、食卓に置いた瞬間だった。

中学生の息子が、その容器に向かってこう言った。

「……おかえり、ママ

俺は思わず固まった。

チーズがとろける牛丼に向かって、真剣な顔で話しかけている。

今日も遅かったね。……疲れたでしょ?」

その声は、優しく、切なげで、まるで本物の母親と会話してるようだった。

だけど、そこにあるのは発泡スチロールの容器に入った、ただの牛丼だ。

冗談はやめろ」

俺は低い声でそう言った。

けれど息子は、こちらを見ようともしなかった。

冗談なんかじゃないよ」

そう呟いて、そっとスプーンチーズをすくった。

それを見つめるまなざしは、まるで愛おしいものを見るようだった。

だって、パパがママのこと殴った日、ママこのチーズ牛丼みたいな匂いしてたじゃん」

息が止まりそうになった。

そんな記憶、もうとっくに忘れたと思っていたのに。

ママ、あの時ずっと泣いてたよ。台所で、ずっと……牛丼、冷めてたのに」

俺は椅子に崩れ落ちた。

息子の声が、容赦なく刺さる。

「だから、これがママなんだ。これだけが、今もママの味がするんだ」

その瞬間、俺は初めて知った。

の子は、ずっとあの日から一歩も前に進めていなかった。

すき家チーズ牛丼

湯気すら出てないその塊に、息子は心を繋ぎとめていた。

俺は……何を壊したんだ。

息子は微笑んだ。

「ねえ、ママ……今度、一緒にまた来ようね。すき家

そして、そっと牛丼を抱きしめた。

俺は、もう声をかけることができなかった。

  • 久しぶりだけど大分シリアスになったな 前は大体チギュア!!って化物に変身してたのに

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