2カ月間に1700万回再生。レコード会社と数百万ドル規模の契約。シングルがビルボードのチャート入り。このような記録は通常、一躍スターダムにのし上がった人間のミュージシャンによって成し遂げられるものだ。しかし今、これらはすべてザニア・モネによって達成された。ザニア・モネは人間ではない。AIによって生成されたR&B歌手である。
ザニア・モネは、31歳の詩人でデザインスタジオ経営者であるミシシッピ州出身のタリシャ・ジョーンズが、楽曲制作者向けのChatGPTのようなAIツール「Suno」を使用して創作した「バーチャル歌手」だ。これによって、ジョーンズは自ら創作した詩を、楽曲へ変換することが可能になった。
モネのヒット曲「How Was I Supposed to Know?」は、世界的に認知度の高い米国の音楽チャート「ビルボード」の「R&Bデジタルソングセールス」部門でトップ10入りを果たし、「デジタルソングセールス」全体でも22位に達した。彼女が発表した5つの楽曲は、現在までに合計で5万2000ドル(約765万円)の収益を上げたと推定される。
ザニア・モネの躍進は、音楽制作のチャンスと実存するリスクの両方を顕在化させた。音楽業界が、ストリーミング経済と著作権問題、AIの役割拡大という岐路にある今、現実に存在しないアーティストをどのように扱えばいいのだろうか?
AIスターの創造
タリシャ・ジョーンズは、ザニア・モネを単なるギミックではなく、一人のミュージシャンとして完全に実現させようと構想した。Sunoのテクノロジーを活用し、彼女はプレイリストを席巻する洗練されたR&Bを具現化した楽曲を制作する。その創作物は、確かにリスナーの心に響いた。 「I Ask For So Little」のストリーミング再生回数は推定156万回に達している。さらに、「This Ain’t No Tryout」「The Strong Don’t Get a Break」「Let God, Let Go」等を合わせたアルバム消費単位でも1万2500を超えた。



