近年、米の価格が上昇していることが注目されています。背景には猛暑などの気候要因による収穫量の減少に加え、JA(農業協同組合)による集荷価格の引き上げや、市場供給の抑制といった流通構造の問題が指摘されています。特に、「これまでの米価は適正でなかった」とする主張と、長年にわたり継続されてきた減反政策との間には明確な論理的矛盾が見られます。
減反政策は、過剰な供給を抑えて価格を安定させることを目的にしており、既存の価格を「適正」と見なす前提に基づいています。一方で、昨今の価格高騰を「適正価格への修正」とする見方は、かえって過去の供給制限が市場を歪めていたのではないかという疑念を呼び起こします。
また、米の流通においては、集荷業者と卸業者の分業体制が続いています。これは、地域と都市をつなぐ機能的な仕組みである一方、物流の非効率化や中間コストの増加を招き、価格の高止まりを助長する要因ともなっています。
さらに、日本の米作は年に一度しか作付けできず、自然災害の影響を大きく受ける作物です。このような不安定な農産物を完全に自由市場に委ねることは、生産者の経営や食料の安定供給に深刻な影響を及ぼす可能性があります。とはいえ、現状維持では限界があるため、段階的な制度付き自由化や、価格変動を補う保険制度の整備、大規模経営への移行といった改革が検討されています。
ただし、そのような改革を実現するためには、当面の間、今の高価格を社会全体で受け入れる必要があります。長年価格が抑制されてきた中で、多くの農家は薄利の経営に耐えてきました。今、価格が上がることでようやく経営の立て直しや設備投資、後継者育成が可能になります。これを「過渡期の必要なコスト」として捉えなければ、改革の土台そのものが崩れてしまいます。
もちろん、無条件に価格上昇を肯定するわけではありません。政府や関係機関には、制度改革の進捗と価格形成の透明性を丁寧に説明しながら、段階的に安定価格帯へと誘導する責任があります。
日本の米政策はいま、大きな転換点にあります。市場原理と伝統的な保護政策の両立は容易ではありませんが、いずれか一方を否定するのではなく、互いの長所を活かす「持続可能な制度設計」を目指すべきです。米という、単なる商品を超えた日本の食と文化の象徴を守るために、今こそ冷静な知恵と社会全体の忍耐が求められています。