少子化が社会に深刻な影響を及ぼし始めてから、すでに何十年も経ちます。少子化は「いつか対応しなければならない問題」ではなく、とっくに「対応が遅れてしまった問題」になってしまいました。その結果として、労働力不足を埋めるために移民政策を真剣に議論せざるを得ない段階にきているのだと思います。
本来であれば、もっと早く少子化対策を徹底し、国内で持続可能な人口構造を作る努力をしておくべきでした。しかし現実は、保育・教育・働き方改革などの取り組みが後手に回り、出生数は減少を続けています。こうなれば「移民を受け入れるべきか否か」という単純な二者択一の問いではなく、「どのように移民を受け入れていくか」という具体的な議論が避けられなくなります。
実際、政府は既にその「地ならし」を始めています。たとえば、JICAが進めるアフリカ・ホームタウン構想は、多文化共生の可能性と同時に地域の不安や摩擦を浮き彫りにしました。また、インドとの人材交流を拡大する政策は、将来を見据えた高度人材の確保という狙いを隠しきれていません。これらは「いずれ日本は移民を受け入れる」という現実を政府自身が理解しているからこそ進められている布石だと考えるべきです。
ただし、移民をただ無計画に受け入れることは社会の分断や摩擦を深める危険性があります。重要なのは、受け入れる移民の「質」を高めるための枠組みを整えることです。ここでいう「質」とは、単に学歴やスキルだけではなく、日本社会で安心して暮らし、地域に根ざし、共に社会を築いていこうとする意思を持った人々をきちんと選び、支援する体制のことです。
そのための方策として、例えば以下のような取り組みが考えられます。
受け入れ基準の透明化:就労スキル、日本語能力、滞在目的などを明確に示すことで、社会に必要な人材を確保する。
定住支援の充実:言語教育や地域コミュニティとの交流を制度的にサポートし、孤立や摩擦を防ぐ。
労働環境の改善:低賃金・不安定労働に押し込めるのではなく、日本人と同等の待遇で働ける仕組みを整える。
双方向の理解促進:移民に「日本に合わせさせる」だけではなく、地域社会も多様性を受け入れる準備をする。
結局のところ、移民政策は「日本の未来をどう築きたいか」という問いそのものです。国民が思考停止のように「移民反対」と唱えるのは、もはや現実逃避でしかありません。必要なのは現実をしっかり受け止め、少しでも移民政策によるリスクを減らすこと、そして欧州の失敗から学んだ政策を展開することです。これこそが、日本社会が持続可能であるために避けて通れない課題だと思います。