2025-11-03

王子様のいない現場

若いころ、女の子が笑ってくれたり、急に怒ったりすることがあった。

その理由がわからなくて、仕事帰りの電車で一人、

窓に映る自分の顔を見ながら、なんとなく落ち込んだ。

それでも、仕事はそこそこ出来ていたと思う。

図面を仕上げ、納期を守り、現場で叱られても次の日には立て直した。

そういうことの積み重ねが、男としての“筋”だと思っていた。

けれど、時代が変わった。

いまは「会話ができる男」が求められる。

LINEの返し方ひとつで印象が決まり

返事が遅ければ気持ちが冷めたと見なされる。

どんな言葉を選ぶかで、思いやりやセンスを測られる。

便利な時代になったのかもしれない。

だけど、なんだか人の中身よりも“言葉の表面”ばかりが評価されるようにも見える。

から晩まで働いて、頭の中が仕事でいっぱいの二十五歳の労働者に、

そこまで多機能を求めるのは、少し酷じゃないかと思う。

三十年もかけて、男女の雇用格差が少しずつ埋まった。

給料も、立場も、昔に比べればずっと対等になった。

それなのに、恋愛世界では“理想王子様”への期待が

しろ高くなっているようにも見える。

けれど、本当の生活って、そんなに華やかじゃない。

夜に帰ってコンビニの袋を置き、靴を脱ぐときに、

小さく息をつく――その瞬間にこそ、

人間の素顔が出るんだと思う。

王子はいない。

いても、ヘルメットを被って汗をかいている。

スマホの画面では不器用でも、

手のひらのタコが、その人の誠実を語っている。

  • 最近は、年収七百万円くらいが希望なんだそうだ。 少し前までは一千万円が理想だったと聞く。 それでも十分、夢のような数字だ。 「どこの部長を探してるんだ」と思わず呟いた。 き...

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