2025-11-01

婚活パーティーで「趣味は何ですか?」と聞かれると

たいていの人は「旅行」とか「映画鑑賞」とか言う。

それを聞きながら僕は、静かに笑っている。

凡人だな、と。

僕の番が来る。

深呼吸して、ピアノ旋律のような声音言葉を口にする。

趣味は……死ぬまでに読むべき小説の名作を、原書で読むこと…ですかね」

ざわ……。

食いついた。

さっきまでスマホをいじっていた女性が顔を上げる。

司会者も一瞬、ペンを止めた。

「えっ、すごいですね!」

原書って、英語のですか?」

「まぁ、英語が多いですけど、フランス語も少し。バルトとか、フォークナーとか。

最近ドストエフスキーを“英語版”で読んでいて……

彼の文体リズムって、翻訳じゃどうしても再現できないんですよね」

そう言うと、ふむふむ、と頷く声。

中には「難しそう……」と呟く人もいた。

その“理解できなさ”を感じるのが、気持ちいい。

もちろん、心の中でだけ笑っている。

「あ、あと『1001 Books You Must Read Before You Die』ってご存じですか?

古今東西の名作、世界中小説が載っていて、僕はそれを全部原書読破しようと思っているんです」

おお…!と小さな歓声が沸く。

だが話しているうちに、テーブル空気が少しずつ重くなっていく。

それでも僕は止まらない。

「やはり…翻訳で読むのと原書では“光の反射”が違うんですよ。

単語ひとつに、時代の呼吸が宿るというか」

司会者が「では次の方」と言う声で我に返る。

隣の女性が少し引いた笑みを浮かべていた。

――それでもいい。

理解されない孤独こそ、自分アイデンティティ証明だ。

帰り道、ひとりになってイヤホンをつける。

AI音声で朗読版の『Pride and Prejudice』を再生する。

英語の響きが耳に心地よく流れ、思わず満足げに頷いた。

やはり小説は…原書に限るものだ。

記事への反応(ブックマークコメント)

ログイン ユーザー登録
ようこそ ゲスト さん