戦地に赴く父親がコスモスを摘んで、「一つだけあげよう」と…
戦時中、どの家も貧しく十分なご飯がなかった。ひもじい生活の中で育った少女ゆみ子は、「一つだけちょうだい」と言うのが口癖になっていた。そう頼めば、何かもらえると思ったのだ。イモ、カボチャの煮つけ、何を求めるにしても、かならず「一つだけ」と付け加えるのを忘れなかった。
戦争が激しくなり、ついに父親が兵士として戦場へ行くことになった。駅へ見送りに行く途中、ゆみ子は「一つだけ」と言って父親が持っていくはずのおにぎりをみんな食べてしまった。汽車に乗り込む前、ゆみ子はまた「一つだけ」とおにぎりをせがみだす。もうおにぎりは残っていない。父親は不憫に思い、駅構内のゴミ捨て場のようなところに咲くコスモスを摘んで、「一つだけあげよう」と言って渡す。
10年が過ぎ、戦争が終わって日本に平和な日常が訪れた。父親は戦争から帰ってこなかった。その代わり、ゆみ子の家の周りにはたくさんのコスモスが咲き乱れていた――。
校長によれば、この物語を生徒たちに読ませ、父親が駅でコスモスを一輪あげた理由を尋ねると、次のような回答があるという。
「駅で騒いだ罰として、(ゴミ捨て場のようなところに咲く)汚い花をゆみ子に食べさせた」
「このお父さんはお金儲けのためにコスモスを盗んだ。娘にそのコスモスを庭に植えさせて売ればお金になると思ったから」