2025-08-06

バイト始めたらいきなり失礼なことを言われた

最近バイトを始めたんだけど、初出勤の朝は妙に静かだった。

まだ開店前の店内は薄暗く、冷蔵ケースの低い唸りだけが響いている。

制服の胸ポケットに名札を差し込み、控室から出た瞬間、年下っぽい大学生が俺を見て口を開いた。

ちょっと失礼なんですけど、弱者男性ですか?」

一瞬、脳が言葉理解するのを拒んだ。

何を言われたのか理解した途端、胸の奥がヒュッと冷たくなる。

その枕詞で、本当に人を刺すことができるんだなと、妙に冷静に思った。

だが空気はすぐに変わった。

そいつが口を大きく開き、「チチチ、チギュ、チチチギュー!」と、耳障りな鳴き声をあげたのだ。

次の瞬間、背中制服が裂け、ヌルリと黒光りする触手が何本も飛び出した。

生き物のように蠢く先端は、近づくと体温を吸い取られるように冷たく、空気が湿った鉄の匂いに変わっていく。

触手は素早く店長肩に巻き付き、そのまま全身を覆う。

店長の瞳から光が消え、ぎこちなく笑顔を作り「いらっしゃいませぇ〜」と繰り返す。

操り人形――もう、人間じゃない。

心臓が喉までせり上がる中、反射的に俺はタイムシフトを発動。

世界モノクロになり、音が消える。

震える指でスマホを取り出し、彼氏電話をかけた。

エイリアン発見直ちに駆除を開始する」

「そっちの能力サポートしてくれ」

彼氏能力サンタクロース

どんな場所からでも爆弾プレゼントできる、完全に季節感破壊した危険な力だ。

時間が動き出すと同時に、足元に赤いリボンの箱が落ちてきた。

だが触手店長を盾のように前に立たせている。

俺がためらった刹那、床下から別の触手が飛び出し、足首を掴んだ。

骨がきしみ、冷たい液体が体内に流れ込む感覚

「こっちに来い……人形になれば楽だ……」

頭の中でざらついた声が響き、視界の色が褪せていく。

タイムシフトも使えない。

俺は――操られるのか?

その時、耳元で彼氏の声が囁いた。

「ためらうな。プレゼントは、開けてこそ意味がある」

床の爆弾に手を伸ばし、留め金を引きちぎる。

轟音と白い閃光が店を包み、爆風に押し上げられるように宙を舞った。

耳鳴りの中、目を開けると店の半分が吹き飛んでいた。

だが煙の向こうで黒いシルエットが立ち上がる。

触手は焼け焦げ、何本も千切れているが、まだ動いている。

人形のように笑う店長の顔をぶら下げたまま、こちらに歩み寄ってくる。

スマホが震え、彼氏の声が低く響く。

「次は……本気で行く」

天井の闇に無数の赤い光が瞬き、それがすべてプレゼント箱だと気づく。

メリークリスマス、クソ触手野郎

次の瞬間、天井から無数の爆風が降り注ぎ、世界が真っ白になった。

――静寂。

気がつくと、瓦礫の中で仰向けになっていた。

触手も、店長も、影も形もない。

ただ、焼け焦げた床の真ん中に、人間心臓の形をした黒い塊が転がっている。

それはゆっくりと脈打っていた。

「終わったか?」と彼氏の声。

「……ああ、多分な」と答えた瞬間、塊が微かに笑ったように見えた。

俺は足元の最後プレゼントを拾い、紐を解く。

「二度と、起きてくんな」

赤い閃光が夜空を照らし、すべては塵と化した。

  • この時間じゃない方がもっと反応良さそう

  • 瓦礫の山に腰を下ろし、深く息を吐く。 爆風の焦げ臭さと、どこか生臭い匂いがまだ空気に混ざっている。 スマホ越しに彼氏の声がした。 「終わったように見えても、油断するな。あ...

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