英王室のアンドリュー氏、元妻と約2.8億円で契約の企業に宮殿ツアー手配 BBCの取材で判明

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ビル・ケンバー政治調査報道編集委員、フィル・ケンプ政治記者
イギリス国王チャールズ3世の弟、アンドリュー・マウントバッテン・ウィンザー氏が、仮想通貨マイニング企業の実業家たちに対して、故エリザベス女王が在宅中のバッキンガム宮殿を私的に見学できるよう、手配していたことがBBCの取材で分かった。この実業家たちはアンドリュー氏の元妻を自社のブランド・アンバサダーとして雇い、最大140万ポンド(約2億8000万円)を支払う契約を結んでいた。
実業家のジェイ・ブルーム氏と同僚のマイケル・エヴァース氏は2019年6月、ロンドン・ナイツブリッジの五つ星ホテルに宿泊中、アンドリュー王子(当時)の車に迎えられ、バッキンガム宮殿の門を通って中へ案内された。
ブルーム氏が共同で設立した「ペガサス・グループ・ホールディングス」は、仮想通貨の取引を証明することで報酬を得る「マイニング」(採掘)を行う事業について、アンドリュー氏の元妻サラ・ファーガソン氏を「ブランド・アンバサダー」として迎えていた。同社の仮想通貨マイニング事業は1年以内に破綻し、投資家に数百万ドルの損失をもたらした。
ブルーム氏はかつて米ラスヴェガスで、マフィアをテーマにした博物館を設立しようとして失敗したことがある起業家で、エヴァース氏は元俳優。バッキンガム宮殿を訪れた2人は案内係に出迎えられ、宮殿の中へ案内された。
エヴァース氏はBBCに対し、自分たちはその後、女王と面会したと話した。しかし、ブルーム氏はそれを否定した。
両氏は同日、バッキンガム宮殿に続き、近くにあるセント・ジェイムズ宮殿で開かれた、アンドリュー王子(当時)主催の「Pitch@Palace(宮殿で提案=ピッチをしよう)」イベントへと、王子から招かれた。イベントは、起業家が投資家にアイディアを提案する日本のリアリティー番組「¥マネーの虎」(イギリスでは同じ番組フォーマットで「ドラゴンズ・デン」として人気を得た)さながらのものだった。
ブルーム氏とエヴァース氏はその日の夜は、アンドリュー氏、ファーガソン氏、そして娘のベアトリス王女と共に夕食を取った。
当時「ヨーク公爵夫人」の肩書を持っていたファーガソン氏は、ペガサス・グループ・ホールディングスと協力し、米アリゾナ州の砂漠地帯で数千基の太陽光発電機を使い、仮想通貨ビットコインをマイニングする計画を推進しようとしていた。
しかし、このプロジェクトは最終的に失敗した。発電機は想定した1万6000台のうち615台しか調達できず、採掘できた仮想通貨はわずか3万3779ドル(当時の為替レートで約350万円)にとどまった。
2021年4月には一部の投資家が、自分たちの資金数百万ドルが行方不明になっていると主張して法的措置を取った。裁判所は投資家たちに410万ドルの賠償金を支払うよう会社側に命じたが、ブルーム氏は控訴する許可を求めている。
この一連の事実は、アンドリュー氏と元妻がどのように生活資金を得ていたのかという疑問のほか、2人のビジネス取引について周囲が長年抱いていた懸念、そしてアンドリュー氏が王室の称号や人脈を私的利益のために利用していたのではないかという疑念を、いっそう深めることになった。
王室の公務を管理するバッキンガム宮殿は10月30日、王族としてのアンドリュー氏の称号を正式に剥奪(はくだつ)する手続きを開始した。称号のみならず、ロンドン近郊にあるウィンザー城敷地内の居宅も失うことになると発表した。
これは、児童性的虐待で有罪判決を受けた米資産家ジェフリー・エプスティーン元被告(故人)とアンドリュー氏が交友していたことに対する、世論の激しい批判を受けての対応だった。
BBCはアンドリュー氏とファーガソン氏へ、ブルーム氏および仮想通貨マイニング事業への関与について詳細な質問一覧を送ったが、回答はなかった。

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ファーガソン氏は、同社での活動に対して20万ポンド以上の報酬を受け取っていた。流出した契約書には、別途120万ポンド相当のボーナス支給が予定されていたことが記されている。
ファーガソン氏は、同社の株式も受け取っていた。同社の事業は、太陽光発電機を使って、ビットコインの「マイニング」に要する膨大な計算処理の電力コストを削減することを提案していた。
契約書は、ファーガソン氏が同社のために最大4回の「ネットワーキング・イベント」に出席することと定めていた。イベント出席の際には、ファーストクラスでの移動、五つ星ホテルでの宿泊、プロのヘアメイクとメイクのサービスを用意すると明記されていた。
契約書には、ファーガソン氏本人は「太陽光業界の専門家だと自称しない」ため、「業界関連情報や商業的評価」に基づいて発言しても、その内容には責任を負わないことも記されていた。
王室との友好関係
ファーガソン氏がラスヴェガスの実業家ブルーム氏と初めて会ったのは、2018年5月のことだった。彼女は、自作の児童書を宣伝するために同市のコンベンションに参加していた。
2人は意気投合し、ビジネスの上でもかかわるようになった。
ペガサス社の文書には、ファーガソン氏の役割として「同社の顧客、投資家、戦略的関係者との交流」や、同社が計画していた「慈善活動」への関与が書かれていた。
ブルーム氏にとっては、王室関係者と知り合うきっかけだった。やがて、バッキンガム宮殿やセント・ジェイムズ宮殿を訪問する機会を得たほか、ウィンザーにある「ロイヤル・ロッジ」(ファーガソン氏とアンドリュー氏のこれまでの居宅)を訪れるようになった。ファーガソン氏や家族との食事会は、少なくとも4カ国で行われた。
ファーガソン氏がペガサス社のブランド・アンバサダーに就任する8年前、ブルーム氏はラスヴェガスでニュース沙汰になっていた。「マフィア体験」イベントをめぐる支払いが遅れ、投資家をだましたという内容だった。しかし、ブルーム氏は不正行為を否定し、投資家からの訴訟に対抗し、返済すると誓っていた。

ブルーム氏はその後、新たにペガサス社を設立し、ギリシャでホテルとカジノを建てようとしていた。
同社への投資を検討していた、元俳優でリアリティ番組出演者のマイケル・エヴァース氏は、そのギリシャで2018年7月に、ファーガソン氏と出会った。エヴァース氏はその時点ですでに、仮想通貨投資で資産を手にしていた。
ホテルとカジノは建設されなかった。しかし、後に投資家が起こした訴訟の資料によると、ブルーム氏は2019年初頭、ラスヴェガスの高速道路でモバイル太陽光発電機が使われているのを見て、ペガサス社の新機軸にしようとした。
ブルーム氏と共同設立者たちは、太陽光発電機を大量に使い、仮想通貨マイニング事業を展開する計画を立てた。この事業は、毎月数百万ドルの収益を生むと見込まれていた。
ファーガソン氏は2019年3月、ロサンゼルスでブルーム氏と夕食を共にした。さらに数日後には、ビヴァリーヒルズ・ホテルで一緒に昼食を取り、ペガサス社が事業契約を獲得できるよう手伝っていた。ファーガソン氏の娘の一人もその食事中に立ち寄った。
エヴァース氏はこの時点で、ペガサスの社員で投資家でもあった。これから数カ月にわたり、ブルーム氏と共にロンドンを頻繁に訪れ、ペガサスをロンドン証券取引所の新興企業向け市場「AIM」に上場させようと、機会をうかがっていた。

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エヴァース氏はファーガソン氏やその家族と親しくなり、「その過程でアンドリュー王子やベアトリス王女や、多くの家族に会った」のだという。アンドリュー氏の家族は「本当に素晴らしい人々で、とても親切だった」とも、エヴァース氏は話している。
「私たちは月に一度、1〜2週間ずつ滞在していた。そのたびに関係が深まり、いろいろな場所を案内してくれるようになった。舞台裏のような場所だったと思う。次々と、多くの人を紹介してくれようとしていた」と、エヴァース氏は語った。
ウィンザー城敷地内にあるロイヤル・ロッジの見学に加え、アンドリュー氏と元妻は2019年6月、バッキンガム宮殿が一般公開されていない日に、二人が宮殿を訪問できるよう手配した。
二人は宮殿に近いナイツブリッジのホテルから、アンドリュー氏が使う濃紺のレンジローバーに乗り、公式運転手の運転で、午後早くに宮殿の門を通って入った。
宮殿内では中庭へ案内され、女性の案内係が二人を出迎えた。車内から撮影された映像が、二人の到着の様子を記録している。
この映像を見た元王室職員はBBCニュースに対し、宮殿の門の警備スタッフは明らかに、この車が来ることをあらかじめ承知していたと話した。
元職員によると、「警備係が運転手に話しかける前に、すでに制止板は下げられている。これは、王族を乗せている場合に想定される対応だ」という。
その後、宮殿内で何が起きたかについては、二人の証言は食い違っている。
エヴァース氏によると、女王と面会する機会があると事前に聞かされていたという。しかし、宮殿に着くとスタッフから、写真撮影は禁止だと言われたという。
「我々がエリザベスと会っていることを、誰にも知られたくなかったようだ。それに、本当にごく短い、あっという間のことだった。あまり体調が良くない様子で、ただ、こんにちはとあいさつして通り過ぎるだけだった。接触などはなかった」
これは正式な面会ではなく、「ただの『こんにちは、さようなら』という感じだった」とも、エヴァース氏は述べた。
女王はこの日、宮殿に滞在していた。公開された日程には、首相との毎週定例の面会が含まれていた。バッキンガム宮殿は、ブルーム、エヴァース両氏との面会が実際にあったのかどうか、肯定も否定もしていない。
メールでの質問に対し、ブルーム氏は当初、自分は観光客として宮殿を訪れただけだと回答していたが、後から、自分が宮殿で会ったのは「スタッフ」だけだったと述べた。

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BBCはブルーム氏に、宮殿に入る車に乗った映像や、アンドリュー氏と一緒に過ごしたというコメントなどが、ブルーム氏本人のソーシャルメディア・アカウントに投稿されていると指摘し、さらに「投稿できる写真と、投稿できない写真と、写真を撮れないものがある……(笑)」というコメントも投稿されていると指摘した。すると、ブルーム氏は自分の記憶違いだったと回答した。
ブルーム氏はその後、「実際、アンドリューのオフィスに案内されて、そこで車の手配と、(アンドリュー氏と)サラがこのツアーを手配してくれたことに、お礼を言った」のだと認めた。
一方、故エリザベス女王に会ったり同じ部屋にいたりしたことは、一度もないと話した。
写真によると、ブルーム氏は2019年7月に再びバッキンガム宮殿を訪れている。ソーシャルメディアでは「HRH(His Royal Highness=殿下)に会った」と冗談めかした投稿もしていた。
砂漠でヘリと銃
その2カ月後にファーガソン氏は、自己啓発コーチとして知られるトニー・ロビンズ氏と共に、ペガサス社によるエネルギープロジェクトの起工式に出席した(ロビンズ氏は、自分はセリーナ・ウィリアムズ氏やヒュー・ジャックマン氏といった著名人のコーチングを担当したと話している)。
式典の場所は、アリゾナ州の砂漠地帯だった。
ファーガソン氏たちはブルーム氏、エヴァース氏らと一緒に、黒と金のヘリコプター2機で現地入りし、金色のスコップと建設用ヘルメットを手に写真撮影を行った。ペガサス社は、この地に数十億ドル規模のオフグリッド型データセンターを建設すると約束していた。
AR-15型ライフルや拳銃で武装した警備員が周りに立つ中、ブルーム氏は記者会見でファーガソン氏を「個人的な友人」と紹介した。
ファーガソン氏は短いスピーチで同社を称賛し、「ここに来られて、とても誇りに思う」と述べ、仮想通貨マイニングの技術をいずれアフリカでの慈善活動に活用できるかもしれないとアピールした。

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その年の10月、アンドリュー氏がBBC番組「ニューズナイト」でエプスティーン元被告との関係を説明しようとして大失敗したインタビューの1カ月前、ファーガソン氏はペガサス社に特定業務を提供する契約書に署名した。
理由は不明だが、契約書の相手は「アルファベット・キャピタル」というイギリス企業だった。同社の所有者エイドリアン・グリーヴ氏は複数のキャンプ場や保養地を運営していた実業家だ。
ロンドンの高等法院が2024年に下した判決から、ファーガソン氏がペガサス社での業務に対して、アルファベット・キャピタルから20万ポンド以上の報酬を受け取っていたことが明らかになっている。
BBCが今年10月に報じた裁判資料によると、アンドリュー氏もアルファベット社から資金を受け取っていた。そのうち6万500ポンドはグリーヴ氏および彼の事業からの資金提供だとされている。アンドリュー氏もグリーヴ氏も、この資金の支払い理由について説明していない。
ブルーム氏は、アルファベット社やグリーヴ氏について聞いたことがないと述べ、ペガサス社とは何の関係もないと主張した。
訴訟と非難
ペガサス社の一部の投資家は、仮想通貨と太陽光発電を組み合わせた同社の事業に数百万ドルを投資した1年後、事業の進捗に懸念を抱き、法的手続きを開始した。
2023年には、アメリカの商業仲裁裁判所が投資家側の主張を認め、数百万ドルの賠償をブルーム氏らに命じた。
ブルーム氏はその後、ネヴァダ州の裁判所で複数の異議申し立てを行っている。彼はBBCニュースに対し、ペガサス社は「いかなる不正行為の疑惑」も断固として争うと話し、「明らかに欠陥のある仲裁判断に対して、確立された法的手続きを通じて対応している」と述べた。
アンドリュー氏とファーガソン氏は、BBCの取材に答えていない。BBCの質問の中には、ファーガソン氏がペガサス社から受け取った報酬を投資家に返還する予定があるかどうかという項目も含まれている。
エヴァース氏は、ペガサス社にかかわったことを後悔していると話している。彼は、ブルーム氏が「すべての投資家に返金するため、とても懸命に努力している」ものの、自分自身も数年たってもまだ返金されていないことに不満を抱いていると述べた。














