性悪説の韓非子は、その性悪説的な価値観を、独裁とディストピアの正当化に利用した、権力の犬としか言えない男だった。
彼の言ってることは、
バカなガキは、大人が相手のためを思ってする辛い教えと体罰に反発する!
だから、国家の課するどんな圧政も、お前らのためを思ってしていると黙って受け入れろ!
過労死するような重労働を課されても文句を言うな!(俺たちがお前らの犠牲で美味い飯を食べるために必要なことだ!)
徴兵して死地に赴かせられても文句を言うな!(俺たちの身を守り、他国民を奴隷にするために人柱となれ!)」
もちろん、カッコ内の言葉は、彼の真意を分かりやすくするために、私が付け加えた文章だ。
彼の思想の幼稚さ、拙劣さ、自己矛盾は、なぜか人間は悪だから庶民は悪だ、政府によって黙って支配されろと言っておいて、政治を動かす人間のことは無条件で信頼していることにおかしさがある。
本当の性悪説から生まれるべき思想は、一人一人の人間は愚かで悪だから、より多くの集合知によって政治は行われるべきという民主主義のはずだ。
なんにせよ、この思想は、フセインやヒトラーみたいな独裁者が読めば、嬉しすぎて失禁すること間違いなしの、ただ権力者に取り入りたいという願望だけが覗き見える思想である。
案の定、その思想にゾッコンとなった暴君の始皇帝は、彼のストーカーとなり、ただ会いたいがために彼の国・韓に侵略まで始めるヤンデレと化した。
始皇帝の目的を知った韓の支配者たちは、韓非子を人質同然に秦に送る。
そこで重用されるかと思いきや、始皇帝の側近たちが嫉妬し、彼を誅殺するように進言し、あんだけベタ惚れだったくせに、側近の一声だけで、始皇帝は韓非子を牢獄送りにし、その側近たちは毒を盛って、彼を自殺するまで苦しめた。
彼の最期のエピソードは、出来過ぎた皮肉なほどの教訓話だが、この手の、庶民を虐げることを何とも思わない、ギャングのような暴君たちの特徴を知れば、当然すぎるほど当然の話しでもあった。
そもそも、他人を何とも思わないような男を、身近なものたちが、なぜ支えて権力を与えるのか。
どんな奴だって、一人で権力を得ることは出来ないのであり、権力とは、そいつの言いなりになる手下の多さにすぎない。
誰も、身近な者から支持されなければ、権力など得られないのだ。
ではなぜ、そんな近寄りたくもないようなサイコパス男たちが、時として絶大な権力を持ちうるのか。
ヤクザやマフィアやギャングたちが、やたらとファミリーだ仲間だ絆だと言いまくるのは、そうやって、「俺は平気で他人を騙して殺して搾取するサイコパスだが、お前ら身内のファミリーは大切にするから安心しろ」という意味である。
だから、どんなに気に入った相手だろうが、韓非子のように最初ファミリーじゃない奴を、後から重用することなどありえないわけだ。
そして、側近からの支持がなければ、どんな暴君も裸の王様になるしかないから、側近の讒言一つで、どんな特別な他者でも殺すしかない。
むしろ、身内からすれば、自分たち以外に暴君の心が行くことこそ何より恐ろしいことであり、だから、暴君に取り入ろうとすればするほど、この側近たちの嫉妬と不安を買うだけで、ただ破滅が近づくのである。
明らかに公正公平な人格で評価されたわけでない支配者たち、他人を貶める陰謀を平気で企める連中というのは、これと全く同じである。
一番上の支配者たちの傍に居ない、下っ端の奴隷・工作員たちは、どんなに働こうが、出世などできないどころか、それで下手に目立って、暴君に気に入られたら最期、最側近たちから危険視されて始末されるのである。
彼らが生き続けるには、適度に無能で空気なバカでいるしかない。
公正公平な人格者の君主というのは、側近もまた、公正公平を欲する正義漢たちであり、だから、実力と人格で他者を登用する事にも抵抗されない。
まあそのために、暴君たちからスパイが送り込まれてしまうわけだが、そのスパイは、手柄を立てた挙句には、誅殺しか待ってない。
暴君というものは、常に傍にいて取り入り続けない限り、誰に対しても殺戮者に過ぎない。
イワン四世やスターリンなんかが典型だが、彼らはむしろ、手柄を立てた将軍などを粛正することで、側近の嫉妬と不安を抑えていたわけだ。
まあどちらも、確信犯的に行っていたとは思えない狂人だったが。
もちろん、現代においてそんなことしてる独裁国家は、イラクや北朝鮮みたいになるだけだ。
皮肉なのは、その資本主義国家こそ、実態は実力主義などではない、本当の寡頭支配者たちによる愚民化支配のディストピアだということだ。
そこでは、実際は、ただ権力者たちの身内が、新進気鋭の経営者だとか科学者のフリをして、愚民たちを勘違いさせて、手柄を立てれば、全て奪って、その危険な本当の実力者たちを、さっさと始末するのである。
彼ら邪悪な支配者たちの唯一の盲点は、そのような愚民化政策の結果は、本当に無能なだけのバカが増えまくり、もはやそんな豚どもを、どんなにおだてようが、木に登って、有用な技術革新の果実を持ってくることなど叶わないということだ。
もちろん、最近ではそれに気づいて、クローン技術で、かつて断絶した優秀な人材を甦らせたりして、最後は始末すること前提で利用し、その後も必要ならクローンだけ作って利用する気満々なわけだが。
だから、MGS2のソリダス・スネークみたいな男は、子供が作れない身体にされているのである。