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なぜ長期投資のプロは「ROIC(投下資本利益率)」を重要視するのか。投資判断に使える分析手法を徹底解説=栫井駿介

投資家の皆さんは、投資を行う際にどの指標を最も重要視するでしょうか?利益、売上高、営業利益率など、多くの指標がありますが、長期投資家として企業の分析を行う中で、結局これが一番大事だと確信している指標があります。それが、ROIC(ロイック)と呼ばれるものです。

本シリーズの第1回目は、ROICがなぜそれほど重要なのか、そしてどのように見ていけば良いのかについて詳しく解説します。本格的に投資を学びたい方、ご自身で勉強したい方はぜひこのシリーズを通じて知識を身につけてください。(『 バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問 バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問 』栫井駿介)

プロフィール:栫井駿介(かこいしゅんすけ)
株式投資アドバイザー、証券アナリスト。1986年、鹿児島県生まれ。県立鶴丸高校、東京大学経済学部卒業。大手証券会社にて投資銀行業務に従事した後、2016年に独立しつばめ投資顧問設立。2011年、証券アナリスト第2次レベル試験合格。2015年、大前研一氏が主宰するBOND-BBTプログラムにてMBA取得。

投資家が最も重視すべき指標、ROICとは何か?

ROICは、日本語では「投下資本利益率」と呼ばれます。

ROICは、分母に「投下資本」を、分子に「NOpAT」(みなし税引後営業利益)を用いて計算されます。

これはトータルで見たときに、出来上がりの数字として「これを抑えておけば間違いない」と言える指標です。

<企業の成長サイクルとROICの概念>

企業は一度利益を出して終わりではなく、ゴーイングコンサーン(継続企業)の前提のもと、営業活動を続け、大きく成長していくことが前提とされます。企業が大きく成長するメカニズムは、稼いだ利益を再度事業に投資し、さらに大きな利益を稼ぐというサイクルを繰り返すことで、雪だるま式に大きく(複利的に)なっていくという考え方に基づいています。

この「稼いだ利益を再投資して稼ぐリターン(利回り)」を簡単に示したものが、ROICなのです。ROICが高いほど、その企業は投じたお金に対して効率よく利益を稼いでいる、つまり企業の投資リターンが高いことを意味します。

ROEとの決定的な違いとROICの優位性

ROICは、皆様にも馴染みのあるROE(Return on Equity:株主資本利益率)と非常に似た指標です。

<ROEの概要と弱点>

ROEは、エクイティ(株式資本、株主資本)に対してどれだけ利益を生んだかを示します。企業の資本がどれだけ効率的に稼がれているかを示す重要な指標です。

しかし、ROEには大きな弱点があります。それは、財務テクニックで操作可能という点です。

例えば、自己資本比率50%でROEが5%の企業が、自己株式取得によって自己資本比率を25%に半減させたとします。この場合、計算式の分母(自己資本)が半分になるため、ROEの数値は自動的に2倍、つまり10%になってしまいます。このように、ROEは財務的な手法によって見かけ上引き上げることが可能であり、必ずしもフェアな指標とは言えません。

<ROICの優位性>

これに対し、ROICは「本当の実力」を表します。

ROICは、上記のような財務テクニックによって数値が変動しないため、財務に関係なく「投じたお金がどれだけ利益を稼いでいるか」という、企業の本質的な投資リターンを示すことができます。

高いROICが実現する複利的な成長

ROICが高い企業は、低い企業に比べて、より大きな資本に効率よく利益を再投資できるため、複利的に企業価値や利益が大きく成長していきます。

ベンジャミン・グレアムが述べたように、企業の株価は短期的に見れば「人気投票」ですが、長期的には「重量計」であり、価値のある企業、たくさん利益を産む企業が最終的に株価も伸びます。私たち長期投資家は、この高いROICを出し続けられる企業を探し出すことが重要となります。

Next: 実際にどう使う?長期投資のプロがやってる「ROICツリー」の分析手法

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