半導体メモリを製造するメーカーであるキオクシア<285A>の株価が、直近の約1.5ヶ月で3倍弱に跳ね上がるという驚異的な動きを見せています。この急騰は、直近の四半期決算において、売上高が前年比で20%減、最終利益が74%減という厳しい結果だったにもかかわらず発生しています。なぜこれほどまでに短期間で株価が上昇したのか、そしてこの勢いのある上昇気流は本物なのか、長期投資の観点から深く掘り下げて検討します。(『 バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問 バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問 』元村浩之)
プロフィール:元村 浩之(もとむら ひろゆき)
つばめ投資顧問アナリスト。1982年、長崎県生まれ。県立宗像高校、長崎大学工学部卒業。大手スポーツ小売企業入社後、店舗運営業務に従事する傍ら、ビジネスブレークスルー(BBT)大学・大学院にて企業分析スキルを習得。2022年につばめ投資顧問に入社。長期投資を通じて顧客の幸せに資するべく、経済動向、個別銘柄分析、運営サポート業務を行っている。
キオクシアの現状:株価急騰と業績のミスマッチ
<短期でPBR5倍近くまで上昇した株価推移>
キオクシアは2024年末に再上場を果たしましたが、当時の評価は決して高くなく、PBR(株価純資産倍率)はちょうど1倍程度でした。その後、緩やかな上昇を見せていましたが、特に9月の頭から10月下旬までの間に、株価はなんと3倍弱まで急騰し、PBRは5倍近くにまで達しています。

キオクシアホールディングス<285A> 日足(SBI証券提供)
<直近の四半期業績が示す厳しい現実>
株価の爆騰とは裏腹に、直近の四半期業績は非常に厳しいものでした。最終利益ベースでは74%もの大幅な減少を記録しています。
この業績悪化の主な原因は、半導体メモリの回復の遅れとされています。特に、売上の内訳で見ると、スマートフォンやタブレット、テレビ、車載向けなどのスマートデバイス向けのメモリ需要が大きく低下しました。
<在庫積み増し後の「買い控え」の発生>
スマートデバイス向けの需要が低下した背景には、市場の期待と現実のギャップがあります。
前年同時期は、新型iPhoneが好調に売れるという期待が市場で膨らんでおり、iPhoneなどを製造する顧客企業は、キオクシアが提供するメモリの在庫を大きく積み増ししていました。しかし、実際には期待通りにはいかず、顧客企業側でメモリの在庫のダブつきが発生した模様です。
この結果、直近の四半期では顧客企業による買い控えが起こり、スマートデバイス向けの需要が大きく下がってしまったのです。さらに、第1四半期に円高側に振れたこともネガティブな影響を及ぼしました。
株価爆騰の核心:AI向けメモリ需要の期待
市況感が芳しくないにもかかわらず株価が爆騰している背景には、「AI向けメモリの需要が今後爆増するからではないか」という結論が先行しています。直近1.5ヶ月の間で、この期待を裏付けるトピックが次々と現れました。

