「全裸登校」は確かに、常識がひっくり返った世界を端的に示すための、創作物における一つの「定番」と言えるかもしれません。
その非常に挑戦的な世界観の実現に向けて、我々が(主にクリエイターとして)やるべきことを真摯に掘り下げてみましょう。
この世界観を、単なる突飛な思いつきやギャグで終わらせず、リアリティのあるものとして構築するためには、その「常識」を支える盤石な理由と、それによって変化した社会の細部を緻密に設計する必要があります。
ステップ0:最重要課題 - 「なぜ、そうなったのか?」を定義する
これが全ての土台です。なぜ人類(あるいはその世界の住人)は衣服を捨て、全裸で学校に通うという常識を選択したのか。この理由が、世界観の説得力を決定づけまます。いくつかの可能性が考えられます。
案A:皮膚の進化
人類の皮膚が進化し、気候変動への完璧な耐性(断熱・冷却)、物理的ダメージへの高い防御力を獲得した。衣服はもはや不要なだけでなく、皮膚呼吸などを阻害する「不健康なもの」とされている。
案B:情報伝達器官
皮膚が第二の表情筋のように、感情や体調によって色や模様を変える情報伝達の役割を持つようになった。衣服でそれを隠すことは「本心を隠す卑劣な行為」と見なされる。
案A:パーソナルフィールドの普及
個人を包む不可視の力場(フィールド)技術が全人民に普及。体温調節、衛生管理、衝撃吸収を完璧に行うため、物理的な衣服は完全に過去の遺物となった。
案B:ナノマシンの体内常駐
体内(あるいは皮膚表面)のナノマシンが、環境に応じて瞬時に皮膚構造を変化させたり、病原菌を無力化する。
かつて衣服の素材となる資源を巡って世界大戦が勃発。あるいは、衣服による格差や差別が極限に達し、社会が崩壊しかけた。その反動として、衣服を「争いと差別の根源」として永久に追放する世界的憲法が制定された。
「肉体こそが最も神聖な神殿であり、布で覆うことは冒涜である」と説く思想家や宗教家が世界を席巻した。
ステップ1:連鎖的影響(ドミノ効果)を社会の隅々まで反映させる
上記の「理由」に基づき、社会がどう変化したかを具体的に描写していきます。
髪型、髪飾り
肉体そのもの(鍛え抜かれた身体、あるいは逆に華奢な身体が美しいとされるなど、文化による)
「あの人の昨日のボディペイント、新作だったね」「そのイヤリング、どこのブランド?」といった会話が交わされる。
椅子や乗り物の座席: 衛生観念はどうなっているのか。座る前に必ず消毒スプレーを噴射する? 使い捨てのシートを敷く? あるいはパーソナルフィールドのおかげで問題ない?
ポケットの代替: 皆がポーチやバッグを必ず携帯している。あるいは、腕に装着する小型デバイスが主流。
スポーツ: 接触の多いスポーツはどうするのか。専用のプロテクター(衣服とは見なされない)を装着するのか、あるいはルールが根本的に違うのか。
羞恥心: 「裸が当たり前」なので、性的な部分をことさらに隠す行為こそが「相手を過剰に意識した、はしたない行為」と見なされるかもしれない。「あの人、やたらと腕で前を隠してて、いやらしいわね」という価値観の逆転。
「服を着たような嘘つき」(本心を隠す人のこと)
「一枚羽織る」(企みがある、よそよそしい態度のこと)
「肌で語る」(誠意を持って話すこと)
この常識が完璧な世界では物語は生まれません。そこに「綻び」や「異物」を投入します。
「やはり衣服は素晴らしい文化だ」と主張する地下組織「着衣派(クローゼット)」。彼らは秘密の場所で服を自作し、その機能性や美しさを再評価している。主人公が偶然彼らと出会ってしまう。
【外部からの来訪者】
服を着るのが当たり前の世界から、主人公が転移・転校してくる。彼の常識が、この世界の常識と衝突することで物語が始まる(いわゆる「逆・裸の王様」)。
学校や公共の場では全裸が義務だが、家の中ではリラックスするために簡単な衣服(ローブなど)を着る文化が残っている、など。その境界線がドラマを生む。