2025-02-06

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ユリウスは地下の道を進む。

足元に広がるのは冷え切った石畳

からは重たい岩が圧し掛かり、空気は湿り気を帯びていた。

かすかな光が反射して、壁面に無数の古代刻印が浮かび上がる。

彼の目には、それらがまるで生きているかのように輝き、神秘的な力が感じられた。

この地下道には、何千年も前から伝わる呪術痕跡が残っている。

 

「行けよ、ユリウス。」

ロディが後ろから声をかける。

彼の声には遊び心と挑発的な響きがあった。

「こんなところで時間を浪費するつもりか? 地下王国を目指しているんだろ?」

 

ユリウスは立ち止まり、足元の石を見つめた。

彼の心の中には、地下に隠された力を求める欲望と、そこに潜む危険を恐れる気持ち交錯している。

それでも、前に進まなければならない。自分を裏切るわけにはいかない。

 

ロディ、そんな言い方をするなよ。」

ユリウスは小さな声で呟く。

「俺だってあんたと一緒に行くことに決めたわけじゃない。」

 

地下道の奥からは、冷たい風が吹き抜ける。

古い石壁の間に埋め込まれ金属製の扉が、わずかに軋む音を立てて開かれた。

ユリウスは一歩踏み出し、扉の向こうの暗闇に足を踏み入れる。

 

「その決断、後悔しないといいな。」

ロディの冷ややかな声が響く。

彼の言葉には、ただの遊び心だけでなく、ユリウスに対する本当の意味での警告が含まれているようだった。

 

地下王国は、失われた王族遺産とされる神秘的な力が眠る場所だ。

だが、それがどれほど危険ものか、誰も知らない

ユリウスの故郷アルディラ王国が滅ぼされたのも、地下で封印されていた力が暴走たからだと、長い間語り継がれている。

自身が生き残った理由すらわからない。

家族と共にあの惨劇から逃げる際、地下道に関する不吉な噂を耳にした。

だが、それでも彼はその力を求めて、今ここにいる。

 

ユリウス。」

ロディが声をかける。

「何だ?」

「その地下王国には、ただの力が眠ってるんじゃない。あんた、何を求めてるんだ?」

 

ユリウスは答えなかった。

地下道の壁に手を触れながら、心の中で言葉を探していた。

それは力ではない。復讐でもない。ただ、あの場所に向かうことで、自分が何かを手に入れられる気がした。

あの時の夜、彼は一人で泣いていた。

家族を失い、王国を失い、世界に何も残されていないと感じた。

しかし、地下には何かがある。それが力であれ、遺産であれ、彼は自分を取り戻すために進むしかなかった。

 

「俺は…」

ユリウスはようやく口を開いた。

「俺は、あの時の自分を取り戻したい。だから、行くんだ。」

 

ロディは何も言わず、ただその言葉を受け止める。

その顔には、ほんの少しの驚きと、やはり挑発的な笑みが浮かんでいた。

 

「ふん、面白い。ならば、どこまでも一緒に行こう。お前のその理由がどう転ぶか、見届けてやるよ。」

 

ユリウスは振り返らずに歩き出した。

彼の足音が、地下道の中で反響する。

それが終わりの始まりだとは、まだ誰も気づいていなかった。

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