2025-07-30

山水党

気がつけば、参院選で5議席を獲得していた。

山水党のことである

設立当初は、全国の山水画愛好者たちによるゆるやかな趣味団体だった。

党是は「幽玄なる風景を前にすれば、政争もおのずと鎮まる」。

政策綱領には「党員による山水画展覧会の年2回開催」「全国支部での山水画教室の定期開催」「墨と硯の補助金制度の創設」など、ほとんど冗談しか思えないスローガンが並んでいた。

いや、実際、冗談だったのだと思う。

ネットでは当初から「某極右政党パロディだろ」「選挙ポスターの前に立つと、なぜか心が和む」「むしろ投票所で唯一笑える存在」と評判だった。

しかし、時代は変わった。いや、変わってしまったのかもしれない。

若者を中心に、「どうせ誰がやっても同じなら山水画でも見て癒やされたい」という無気力共感が広がり、

また「山水党が山河を守るって言ってるけど、あの人たちマジで山と川しか守る気なさそうで逆に信頼できる」という皮肉な信頼も集めた。

特に決定的だったのは、街頭演説での山水党党首発言だった。

日本風景は、派閥より強い。墨のにじみは、政治の濁りを越える。」

その映像SNSでバズった。

山水画なんて見たこともなかったZ世代がこぞって筆と硯を買い求める「墨ブーム」が到来した。

インフルエンサーが「政治への怒りを一筆で沈める」と言い出した。

タピオカ以来の流行語が「幽玄」だった。

その帰結が、今回の選挙結果である

一方で、当然ながら現実的政策にはまるで手が届いていない。

初登院の山水党議員は全員が和装で登場し、議場での発言も「四季の移ろいを思えば…」「雲の流れのごとく…」など、もはや何を言っているのかわからない。

だが、誰も怒らない。

なぜなら彼らは「癒やし」だから

反感を買わない唯一の政党、それが山水党なのかもしれない。

政治がここまで期待されなくなったことに、笑えばいいのか泣けばいいのかわからなくなる。

だが私は、山水党の出した公約パンフレットを机に広げながら、妙に整った筆致の党ロゴを眺めて、こう思った。

「こんな国に誰がした、という嘆きすら、にじんで消えていくのだろうな」と。

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