歩き続ける1人の男性。果てしなく広がる氷原、まだら模様のツンドラ地帯、切り立った崖や奇岩が広がる砂漠など、地球に存在する多種多様な生態系の中を次々と歩いていく男性に、見る人の目は集中していく。地球全体に及ぶ人間の活動は、土地をどう形作ったのだろうか? こんな問いを映像は暗に投げかけている。
短編映画「100秒でわかる地球」を制作した地理学者でナショナル ジオグラフィックのエクスプローラー(探求者)でもあるダニエル・レイブン・エリソン氏を突き動かしたのも、そんな疑問だった。このプロジェクトの目的は、地球の土地利用に関するデータを、地球を歩くという物語形式で分かりやすく伝えることだ。
1秒の映像は地球の陸地面積の1%を表している。すると、公園や野生動物の生息地である自然環境に比べ、いかに多くの土地が牧場経営や農業といった人間活動に利用されているかが分かる。
「私たちが地球の土地をどう利用しているのかを知る必要があります」とレイブン・エリソン氏は言う。「ただ、実情を把握するには地球は大きすぎるという問題があります」
「1秒」の都市が7割のCO2を排出
瞬きをすれば見落としてしまうような速さで切り替わっていく町なかの映像が動画の中盤で現れ、都市部が占める地球の表面積はほんの1~2%だと分かる。しかし、これらの都市が地球に及ぼす影響は大きい。都市部で暮らすのは世界人口の半数余り。だが、都市から排出される二酸化炭素(CO2)は世界のCO2排出量のおよそ7割を占めるという研究結果がある。
「都市を単なる住宅や道路、工場の集まりから、それらが消費する周辺の環境も含めて捉え直す必要があります」と、レイブン・エリソン氏は訴える。
短い都市の映像とは対照的に、動画は53秒を費やして農地や牧草地、そして木材生産を目的として育てられた人工林を映し出している。合計すると人間は地球の土地の約71%を利用している。手つかずの原生林が映っているのはわずか8秒。自然のまま残されているその他の土地の大半は、アクセスが困難なため、人間がほとんど利用していない土地だ。
氏が利用したデータは、国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が2019年に発表した気候変動の影響と解決策に関する報告書に基づく。IPCCは世界を代表する気候科学者などからなり、気候変動に関する科学的な合意の要点を記した報告書を定期的に発行している。
「豊かで感情に訴える体験となるはずです」
レイブン・エリソン氏が手がけた作品は「100秒でわかる英国」のほか、オランダや英国の国立公園などをテーマにしたさまざまな映像に及ぶ。
「100秒でわかる地球」を制作するとき、氏は人々が長い距離を歩いたり、秒単位で数えたり、パーセンテージ(百分率)を使ったりするのに慣れている点を考慮した。こうした尺度を使えば、人間による地球の土地利用の現状をより分かりやすく示せるのではと考えたのだ。
「誰かが歩いているのを見れば、物語を通してその人やその人が歩いている場所に共感を覚えます。それは無味乾燥なチャート、グラフ、表などに比べてはるかに豊かで感情に訴える体験となるはずです」
さまざまに利用される土地を撮影するにあたり、氏は意図的にごくありふれた「日常的な」場所を選んでいる。動画の大半は、レイブン・エリソン氏自身がこうした場所を歩いている姿を上空からドローンで撮影したものだ。
データを徒歩の旅に見立てたことで、見る人はデータをリアルな場所や数字としてイメージできる。より多くの土地を自然のために割り当てる将来を想像できるだろうか? レイブン・エリソン氏は私たちにそう問うている。
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