米ペンシルベニア州ピッツバーグに住み、パーソナル・トレーナーとして働くアレックス・シモンズさんは、37歳のときに、痙攣(けいれん)、片頭痛、胃が締め付けられるような感覚を訴えて救急搬送された。
実は1カ月ほど前から疲労と倦怠感に悩まされていたのだが、ただの風邪だろうと軽くみていた。しかし症状はしだいに悪化し、ついに無視できないところまで来てしまった。医師たちがシモンズさんの血圧を測ると260/150もあった。彼が若く、いかにも健康そうに見えたため、この数値は全員に衝撃を与えた。
診察の結果、シモンズさんは進行した「慢性腎臓病(CKD)」で、それが急速に悪化して腎不全になっていたことが分かった。「私は2週間の入院を経て退院しましたが、その後は透析を受けるようになりました」と彼は言う。
現在、世界の慢性腎臓病の患者は約7億人と推定され、1990年以降で90%以上も増加している。米国立糖尿病・消化器・腎疾病研究所(NIDDK)によれば、米国では人口の15%にあたる3550万人が慢性腎臓病だが、患者の10人中9人は自分がこの病気だと知らない(編注:日本腎臓学会によれば、日本では2024年に成人の5人に1人にあたる約2000万人が慢性腎臓病だと推定されており、2005年推計の1330万人より増えている)。
「腎臓の痛みがないので、自分では気づかないのです」と、米UTサウスウエスタン医療センターの腎臓専門医であるサミール・パリク氏は説明する。(参考記事:「自覚しづらい「遺伝する高コレステロール」、9割超が未診断とも」)
慢性腎臓病は増える傾向にあるが、理由はまだ解明されていない。腎臓病は世界の死因の筆頭である心血管疾患と関連しているため、医師や研究者たちはこの傾向に不安を感じている。
良いニュースもある。ほとんどの種類の慢性腎臓病に対して、新しい治療法が登場しているのだ。早い段階で気づくことができれば、有効な選択肢は複数ある。「一般的な腎臓病だけでなく、まれなタイプの腎臓病まで、大きな技術革新が起きています」とパリク氏は言う。(参考記事:「ブタがあなたの命を救う日、世界が注目した「異種移植」」)
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