知らない間に悪化する「慢性腎臓病」が増加、見つけ方や対処法は

日本では成人の5人に1人と推定、リスクが高い人は? 心血管疾患などにもなりやすい

2025.11.26
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
世界の腎臓病患者は約7億人にのぼり、1990年以降で90%以上も増えている。専門家は、この増加の背景を完全には解明できていないものの、腎臓病の治療が技術革新の時代に入っていることは朗報だと言う。(PHOTOGRAPH BY ALFRED PASIEKA, SCIENCE PHOTO LIBRARY/GETTY IMAGES)
世界の腎臓病患者は約7億人にのぼり、1990年以降で90%以上も増えている。専門家は、この増加の背景を完全には解明できていないものの、腎臓病の治療が技術革新の時代に入っていることは朗報だと言う。(PHOTOGRAPH BY ALFRED PASIEKA, SCIENCE PHOTO LIBRARY/GETTY IMAGES)
[画像のクリックで拡大表示]

 米ペンシルベニア州ピッツバーグに住み、パーソナル・トレーナーとして働くアレックス・シモンズさんは、37歳のときに、痙攣(けいれん)、片頭痛、胃が締め付けられるような感覚を訴えて救急搬送された。

 実は1カ月ほど前から疲労と倦怠感に悩まされていたのだが、ただの風邪だろうと軽くみていた。しかし症状はしだいに悪化し、ついに無視できないところまで来てしまった。医師たちがシモンズさんの血圧を測ると260/150もあった。彼が若く、いかにも健康そうに見えたため、この数値は全員に衝撃を与えた。

 診察の結果、シモンズさんは進行した「慢性腎臓病(CKD)」で、それが急速に悪化して腎不全になっていたことが分かった。「私は2週間の入院を経て退院しましたが、その後は透析を受けるようになりました」と彼は言う。

 現在、世界の慢性腎臓病の患者は約7億人と推定され、1990年以降で90%以上も増加している。米国立糖尿病・消化器・腎疾病研究所(NIDDK)によれば、米国では人口の15%にあたる3550万人が慢性腎臓病だが、患者の10人中9人は自分がこの病気だと知らない(編注:日本腎臓学会によれば、日本では2024年に成人の5人に1人にあたる約2000万人が慢性腎臓病だと推定されており、2005年推計の1330万人より増えている)。

「腎臓の痛みがないので、自分では気づかないのです」と、米UTサウスウエスタン医療センターの腎臓専門医であるサミール・パリク氏は説明する。(参考記事:「自覚しづらい「遺伝する高コレステロール」、9割超が未診断とも」

 慢性腎臓病は増える傾向にあるが、理由はまだ解明されていない。腎臓病は世界の死因の筆頭である心血管疾患と関連しているため、医師や研究者たちはこの傾向に不安を感じている。

 良いニュースもある。ほとんどの種類の慢性腎臓病に対して、新しい治療法が登場しているのだ。早い段階で気づくことができれば、有効な選択肢は複数ある。「一般的な腎臓病だけでなく、まれなタイプの腎臓病まで、大きな技術革新が起きています」とパリク氏は言う。(参考記事:「ブタがあなたの命を救う日、世界が注目した「異種移植」」

次ページ:他の健康問題も重なってくる慢性腎臓病、危険因子は?

ここから先は、「ナショナル ジオグラフィック日本版」の
定期購読者*のみ、ご利用いただけます。

*定期購読者:年間購読、電子版月ぎめ、
 日経読者割引サービスをご利用中の方になります。

おすすめ関連書籍

2025年6月号

ブタがあなたの命を救う日/ビーバーから学べること/失われゆく楽園/地球を守る未来のファッション

2024年3月、生きている患者にブタの腎臓が移植され、大きな話題となりました。特集「ブタがあなたの命を救う日」では、異種移植研究の最前線を追いかけます。このほか、“森の建築家” ビーバーから学べること、インドネシアのスローファッション、モロッコの失われゆくオアシスなどの特集をお届けします。

定価:1,350円(税込)

おすすめ関連書籍

医療革命 あなたの命を守る未来の技術

新型コロナウイルスのワクチン開発や、遺伝子解析技術を使って個々の患者に合わせた治療を行う精密医療など、今、医療の世界で起きている様々なブレイクスルーを解説。 〔全国学校図書館協議会選定図書〕〔電子版あり〕

定価:1,540円(税込)

  • このエントリーをはてなブックマークに追加