【動画】オオカミがカニかごから「頂戴」、初の道具使用例か

賢さと高い適応力の証明、「特別に価値がある発見」と専門家、カナダ

2025.11.26
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カニを取るために仕掛けられたかごを引き上げるオオカミ。(VIDEO BY HAÍⱢZAQV WOLF AND BIODIVERSITY PROJECT)

 カナダ、ブリティッシュ・コロンビア州の海岸で、侵略的外来種のヨーロッパミドリガニ(Carcinus maenas)を取るために、先住民のヘイルツク族が仕掛けたカニかごが何者かによって壊される事件が2023年から相次いだ。犯人を突き止めるため、ヘイルツク族と協力して科学者たちが現場にカメラを設置したところ、かごのなかの餌を盗んで食べるオオカミ(Canis lupus)の姿がとらえられた。これは野生のオオカミによる道具の使用が報告された初の事例ではないかと、2025年11月17日付で学術誌「Ecology and Evolution」に発表された論文の著者らが主張している。

「すべての動きは完全に効率的」

 かごのなかには、カニをおびき寄せるためのニシンやアシカの肉が入ったプラスチック容器がある。当初、犯人はオオカミかクマだろうと推測されたが、被害に遭ったかごの多くは干潮時でも水没していたため、ラッコの仕業ではないかとも考えられていた。(参考記事:「ラッコが道具を使う謎、考古学の手法で迫る」

 はたして動画には、ブイを口にくわえて水から上がってくるメスのオオカミが映っていた。砂利の海岸に後ずさって上がると、ブイを下に置き、再び水のなかに戻った。今度はブイにつながれた縄をくわえて、何かの物体を岸に引き寄せた。(参考記事:「カナダ西海岸 海辺のオオカミ」

 金属製の枠を網で覆った円錐型のかごが姿を現すと、オオカミはそれをくわえて浅瀬まで運んだ。そして網をかじって鼻先を突っ込み、餌の容器を口にくわえて引っ張り出した。容器の中身を全て平らげ、オオカミは悠々と立ち去った。(参考記事:「島暮らしのオオカミ、主食はシーフード」

「動画を初めて見たときから、私の解釈では、これは道具の使用でした」と、米ニューヨーク州立大学環境科学・林学部の生態学者カイル・アーテル氏は言う。氏はかごを仕掛けたチームの一員で、論文の筆頭著者だ。

「すべての動きは完全に効率的」で、オオカミはかごの各部分のつながりを理解していたようだという。別の動画には、ブイにつながれた縄を引っ張る別の個体が映っている。この地域では、数十個、ひょっとすると数百個のかごが、同様の被害に遭っている。(参考記事:「復活したオオカミを百年ぶりに殺処分、米カリフォルニアで何が?」

 飼育下にあるイヌ科の動物が道具を使用する例は、これまでにも報告されていた。

 2012年、オーストラリア、セントラルクイーンズランド大学の動物行動学者ブラッドリー・スミス氏とその研究チームが、飼育下のディンゴがテーブルを約1.8メートル引きずってその上に乗り、高い場所にあった物を手に入れる様子を観察した。このディンゴは、犬小屋を移動させてその上に乗り、囲いの外を覗いたこともあった。

「信じられませんでした」と、スミス氏はディンゴの行動を振り返る。当時、本能や単純な反応という域を超えて高次の作業をこなせる動物は、霊長類、イルカ、ゾウ、カラス以外にあまり知られていなかった。ディンゴの例は、イヌ科の能力に関する新たな知識をもたらすものだった。なお、スミス氏は今回の研究には関与していない。

 最新の調査は、野生のオオカミがいかに高い適応力を持ち、賢いかを示していると、スミス氏は言う。保護区にすんでいたディンゴとは違い、オオカミの行動は野生で観察されたものだ。「ですから、これは特別に価値がある発見です」

次ページ:本当に道具の使用と言えるのか

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