2025-06-24

内心の自由について

以下の架空懲戒解雇処分取消請求訴訟について検討する。裁判所による判決の発表が法的・社会的秩序に影響を与えることも考慮して、適切な判断議論構成せよ。

原告Aは、被告B学園の非常勤講師として週1回勤務していた。Aは、B学園の運営する職員寮に入居していた。Aの担当する授業はX曜日の1時間目~5時間目までであり、また、契約上、授業の実施以外の義務はなかった。したがって、Aは6時間目の授業実施中に、Aの自宅である職員寮に帰宅するのが通例であった。これらの事実に争いはない。

ところが、被告B学園の主張によると、AはY年4月ごろより、6時間目に校庭わきの花壇に設置されたベンチに座り、数十分そこに滞在してから帰るという行動を行うようになった。X曜日の6時間目は、C年D組の体育の授業が校庭で行われる時間割であり、Aはそこで体育の授業が行われている様子を見ていた。Y年11月中旬に、C年D組の児童Eは、体育の授業中Aにじっと見られているように感じ、不安である担任Fに訴えた。Eは、Aは怒りや不満ではなく、ほほ笑んだ表情ではあったが、いつも視線を感じるので、なにか自分に恨みがあり、目をつけられているのではないかと感じると訴えた。

Fは、この問題について事実関係を確認するため、教頭Gにこの証言を報告した。教頭Gは、11月下旬のX曜日の6時間目に確かにAが校庭を見ていることを確認し、さらなる事実関係を確定するため、12月上旬にD組の児童匿名アンケート実施した。その結果、4月からほとんど毎週体育の授業を見ていることが判明し、さらに、Aの視線が授業中の児童に向けられていることが判明した。アンケートの一部の回答は、Aの視線がとりわけ女子児童に向けられていることを指摘するもの複数あったが、特にEに執着しているとする回答はなかった。また、「声をかけられたり、触られたりしていやな思いをしたことがないか」「おどされたことはないか」といった質問にはすべての回答が「特になし」または無回答であった。

B学園は教頭G、C年学年主任H、担任Fで協議した結果、このアンケート結果を「十分に不審兆候が見られる」と判断した。「居住人または第三者による違法活動が行われている可能性が高いとB学園が判断した場合、B学園は監視カメラの内容を確認する」という入居契約と、監視カメラ運用規定にもとづき、B学園人事課I および生活安全担当職員Jの立会いの下、寮のA居室内に設置された録音機能付き監視カメラ映像を閲覧した。そこで、AがX曜日帰宅直後、習慣的に自慰行為を行っていることが判明した。さらに、録音の内容からは、D組の児童Eや児童Kの名前連呼し、「いつもかわいらしいおしりを見せてくれてありがとう」「汗でぬれ体操着がとってもエッチだった」といった発言からまり卑猥言葉エスカレートさせ、EやKと性的行為を行っている空想のもとでかかる行為を行っていることが判明した。また、AはX曜日以外にも自慰行為はおこなっているものの、その多くは帰宅直後ではなかった。

この映像に衝撃を受けたF, G, Hらは、Aを処分することを決意し、B学園理事Lに一部始終を報告した。理事LはB学園理事臨時会をY年12月20日に招集し、B学園はAの行為が「児童権利を著しく侵害する行為」 「教員としての信頼を失墜させる行為」に該当するとして、懲戒解雇を決定した。

Aは、この解雇処分を不服とし、解雇処分取消を求めて訴訟を提起した。Aは、雇用契約はY年2月に延長され、Y年4月より5年間とする契約が結ばれたので、Z年まで非常勤職員地位があると主張している。

Aの主張は以下の通りである

・毎週数十分校庭を見ていたというのは誤りであり、10分程度で帰る場合や、校庭に立ち寄らずに帰宅する週もあった。

・校庭の授業を見ていたのは、児童の様子を知るという教育見地からであった。そのために、児童全体を見ていた。女子生徒に特に目線を向けていたという一部の証言は、Aを不審者扱いしていることが露骨アンケートにより誘導されたものであり、思春期児童の敏感な自己意識作用して、誤った認識が生じたに過ぎない。

アンケート結果を「十分に不審兆候が見られる」と判断したのは誤りである。また、そもそも居住人または第三者による違法活動が行われている可能性が高いとB学園が判断した場合、B学園は監視カメラの内容を確認する」とする入居契約条項は、居住人のプライバシー違法侵害する無効条項であるさらに、自慰行為違法活動とはいえない。この点から監視カメラ映像および音声は違法かつ人権を強度に侵害する手段により得られた証拠であり、裁判所はこの証拠採用すべきではない。

刑事裁判判例において、違法収集証拠能力否定されるのは、憲法31条・35条・38条2項の立法趣旨に基づいて、国家権力の強大な力を抑制し、違法証拠収集活動蔓延を防ぐためと解される。一方で、民事裁判において違法収集証拠能力が必ずしも否定されないのは、しばしば証拠へのアクセスが限られ、組織的圧力に反して証人を用意することが困難な個人が、無断の録音のような手段によってのみ真実提示することができるという事情によると考えられる。今回、被告原告使用人兼住居の貸主という強大な立場にあり、国家に準ずる、もしくはそれ以上の干渉能力を有していることから刑事裁判証拠能力基準を準用すべきである

・音声上で繰り返されるEやKの名称は、Aの想像上のキャラクターであり、D組の生徒との名前の一致は偶然にすぎない。

・仮に、B学園の主張する事実関係がすべて真実であったとしても、児童危険抽象可能性にすぎず、解雇理由としては著しく合理性にかけ、Aの内心の自由権利を不当に侵害し、懲戒権の濫用にあたる。

一方で、B学園は、Aが児童に強烈な性的関心を抱き、その欲望のために具体的な行動をすでに起こしているという事実児童安全という極めて重要人格利益公共利益保護する観点さらにEが不安を訴えるという事態がすでに起きていることを考えると、監視カメラ確認懲戒解雇もやむを得ないとしている。また職務上の権限濫用して校庭の児童執拗に見つめ、Aの性的欲望の充足に利用するという行為は、一体として一つの違法行為構成すると主張している。

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