この記事は雑誌ナショナル ジオグラフィック日本版2025年12月号に掲載された特集です。定期購読者の方のみすべてお読みいただけます。
環境保全活動の歴史で、自然界に対する私たちの理解をこれほど変革した人物はほとんどいない。ナショナル ジオグラフィックが所蔵する写真を通じ、2025年10月に他界したジェーン・グドールの生涯と業績を振り返る。これまで未公開だった写真も含まれている。
ヒトはかつて特別な存在だと考えられていた。神が自らに似せて創造した、地上における万物の支配者であり、ほかの動物とは別格の生き物なのだと。事実はどうあれ、そう信じられていたのだ。ジェーン・グドールは、今ではタンザニアのゴンベ国立公園となった場所で野生のチンパンジーに関する非凡な研究を行い、そのうぬぼれた信念を大いに突き崩した。
グドールは、ゲノムの比較によってそれが確認されるずっと以前から、チンパンジーとヒトとの隔たりが小さいことを示していた。現存する動物のなかで、チンパンジーと最も近縁なのはゴリラではない。ヒトなのだ。
彼女の功績は永遠に生き続けることだろうが、グドール自身はそうはいかなかった。講演旅行の途上にあった10月、米国ロサンゼルスで他界したのだ。1986年に研究活動に終止符を打って活動家に転向して以来、彼女は各地を旅し、大勢の前で講演を行い、数え切れないほどメディアに登場し、政治指導者たちを訪ね、子どもたちと交流してきた。すべては人々の心情や発想を変え、人間が自然界とより穏やかで賢明な関係を築けるようにしようという努力の一環だった。享年91。
彼女の長い人生のなかで、特に重要な一日がある。1960年7月14日、26歳だった彼女は、現在のタンザニアに位置するタンガニーカ湖東岸のゴンベに船で到着し、チンパンジーの研究を始めた。アフリカの赤道直下にのみ生息するチンパンジーの個体数は当時、約100万頭。ゴンベ保護区にいたのはわずか100頭ほどだったが、おそらくチンパンジーの典型と見ることができたのだろう。
グドールはその仕事に適任とは言えなかった。生物学における資格も、学位ももっていなかったのだ。両親の離婚後は経済的に困窮し、大学に進む代わりに、秘書の養成学校で学んだ。しかし彼女には、野生動物を相手にした仕事がしたいとか、ジャーナリストになるといった夢と、強い精神力があった。それらはまず著名な古人類学者であるルイス・リーキーの知るところとなり、グドールはケニアのナイロビで彼の秘書として雇われる。リーキーは次第に彼女の仕事ぶりを認め、グドールに新たな挑戦を提案した。それがチンパンジーの行動について調べることだった。新たな知見が得られれば、ヒトの祖先のことが解明できるかもしれないと、リーキーは考えたのだ。
「動物行動学が何なのか知りませんでした」と、グドールは2010年に私に話した。それは私たちが何度となく行った対話の一つだった。「単に行動を研究するという意味だと気づくまでに、けっこうな時間がかかりました」











