最初は、可愛らしいキャラクターが描かれたものを集めていただけだった。けれども、次第に色や形、素材にこだわるようになり、海外製のものや限定デザインのものまで収集するようになった。それを綺麗に箱に並べては、うっとりと眺めるのが日課だった。
しかし、それだけでは満足できなくなった彼女は、ある日「本物の傷に貼られたバンドエイド」を集めることに興味を持つようになった。
それは、彼女にとって特別な意味を持つものだった。人々の傷を覆い、痛みを和らげる存在。けれども、それが剥がされた瞬間、傷は再び空気に晒され、痛みが蘇る。バンドエイドは、一時的に人を救うが、決して傷を消してはくれない。彼女は、その儚さに魅了されたのだった。
最初は自分の傷に貼ったバンドエイドを集めた。紙で指を切った時、転んで膝を擦りむいた時。それをそっと剥がし、密封して保存するようになった。しかし、それだけでは足りなかった。
「他の人の傷跡が残るバンドエイドも欲しい」
「ねえ、そのバンドエイド、取ったらちょうだい」
最初は冗談だと思われ、笑われた。しかし、何度もお願いするうちに、好奇心を抱いた友人の一人が、彼女に自分のバンドエイドを渡してくれた。
それは、小さな指の切り傷を覆っていた、普通の肌色のバンドエイドだった。しかし、端にわずかに乾いた血が滲んでいて、剥がされたばかりのそれは、温もりを持っていた。彼女はそれを震える手で受け取り、まるで宝石でも手に入れたかのように丁寧に包装し、コレクションの箱に収めた。
友人だけでなく、クラスメート、バイト仲間、果ては通りすがりの人にまで「もし傷を負ったら、そのバンドエイドを私にちょうだい」とお願いするようになった。最初は不審がられたが、彼女の必死さに根負けし、数人は渡してくれた。彼女はそのたびに感謝し、嬉しそうに受け取った。
だが、それだけでは満足できなくなっていった。
人の傷が自然にできるのを待つのは、あまりにも時間がかかる。彼女は、ほんの小さなきっかけで人が傷を負うことを学び始めた。
例えば、何気ないふりをして紙を渡す時、相手が指を切るような角度で渡す。歩いている時に少し強めに肩をぶつける。そうやって、ささやかな傷を生み出し、それを手に入れる機会を作り出した。
しかし、それでも足りなかった。
最初は自傷だった。腕や足にカッターで浅く傷をつけ、そこにバンドエイドを貼る。痛みを感じながらも、それを剥がし、コレクションに加える快感があった。しかし、それもやがて飽きてしまった。
「他人の傷が欲しい」
彼女は、もっと直接的な方法を取るようになった。わざと転ばせたり、少し強めに引っかいたり、気づかれないように針を突き立てたり。
「ごめんね、大丈夫?」
そう言いながら差し出すのは、彼女が大切にしているバンドエイド。
そして、数日後。
「もう治ったから剥がすね」
「それ、私にちょうだい?」
傷つける罪悪感よりも、それを手に入れる快楽が勝ってしまった。
そんな彼女の異常さに、周囲は少しずつ気づき始めた。ある日、彼女はクラスメートから厳しく問い詰められた。
「……お前、何かおかしいよ」
彼女は笑って誤魔化そうとしたが、その時、ある生徒が言った。
「この前、お前にわざと爪で引っかかれたやつがいるって聞いたぞ」
空気が張り詰めた。
彼女の異常な行動が、ついに公になった瞬間だった。
噂は一瞬で広がり、彼女は孤立した。誰も近づかなくなり、誰も彼女にバンドエイドを渡してくれなくなった。
それでも、彼女は諦めなかった。
彼女は、腕に深い切り傷をつけ、そこに一番お気に入りのバンドエイドを貼った。痛みは感じなかった。ただ、それを剥がす瞬間の快感を想像し、震えた。
「これは、私の最高のコレクションになる」
血が溢れ、止まらなかった。
彼女は、最後のバンドエイドを握りしめながら、ぼんやりと思った。
「これは、バッドエンド……?」
これが言いたかっただけやろエントリ