はてなキーワード: ぽん酢とは
ふむ……至高の湯豆腐か。愚問よな。湯豆腐とは、何かを足して工夫する料理ではない。むしろ、いかに余計なものを削ぎ落とし、素材の本質を引き出せるか にかかっている。多くの者は、調味料や出汁にこだわるが、それらはすべて「豆腐」「水」「火加減」の前には些事に過ぎぬ。
まず豆腐。湯豆腐において最も大事なのは、豆腐の輪郭を崩さず、なおかつ繊細な口当たりを生かすこと だ。寄せ豆腐はふわりと溶けるが、崩れやすい。木綿はしっかり形を保つが、食感が硬い。では、どう選ぶべきか。
答えは水との相性で決まる。あるとき、京都の老舗で湯豆腐を食した際、店の親父が「今日は木綿や」と言った。私は絹ごし派だったが、「今日の水なら、絹ごしやと輪郭がぼやける」と言われ、試してみるほかなかった。結果、その判断に納得せざるを得なかった。水の違いが、豆腐の食感までも左右するのだ。
水は、料理の形を決める。湯豆腐の水に求められるものは、ただの「名水」ではない。軟水であること、雑味がないこと、そして火を入れたときに澄んだままであること。ある旅館で、名水を使った湯豆腐を食したことがある。豆腐の甘みが際立っていたが、それ以上に印象に残ったのは、供された湯飲みの湯の旨さだった。あのとき初めて、湯豆腐とは「温める」料理ではなく、「湯の力を借りて豆腐の本質を引き出す」料理なのだと気づいた。
出汁は、主張すべきではない。昆布の種類を論じる者は多いが、それ以前に重要なのは「煮立たせないこと」だ。強火にかければ、えぐみが出てすべてを台無しにする。これを軽視する者は多いが、湯豆腐とは「湯の力を借りて豆腐の本質を引き出す」料理であり、出汁が前に出すぎてはならない。
薬味もまた、慎重に選ぶべきものだ。ぽん酢、生姜、七味、柚子胡椒——確かに、それぞれに良さはある。だが、最もシンプルな答えを挙げるならば、「塩」だ。試しに藻塩をひとつまみだけ豆腐にのせ、箸でそっと割る。口に入れると、大豆の甘みがふわっと広がる。そのとき、「なるほどな」と思った。薬味とは「味を足す」ものではなく、「豆腐の輪郭を引き立てる」ものなのだと。
結局のところ、至高の湯豆腐とは、特別な食材を揃えることではない。己の舌を研ぎ澄まし、豆腐の声を聞くこと。そこに至ったとき、初めて「本当の湯豆腐」が見えてくるのだ。