2025-04-19

トランプ政権はたぶん多くの日本人が思っているより無茶苦茶

タイトルの通りです。

日本では、

トランプの狙いはコレコレではないか」などと議論されていることもあると思うけれど、トランプははっきり法治を覆そうとしている、と左右を問わずまともなアメリカメディアFoxNews Maxブライトバードなどを除く)ではみなされている。

政権担当者には、1984も真っ青な、「ニュースピーク」、「ダブルシンク」が求められているところであり、もしトランプ政権にまともな精神状態共和党員がいたのであれば、病んでしまうのではないか

ありとあらゆるところで、トランプ政権無茶苦茶ぶりがあふれ出しているが、ここでは、デュープロセスなしでの国外追放についてのみに絞ってお伝えする。

一事が万事この調子なので、アメリカ在住のMAGAでない人には正気を保つのは難しい。

3月15日敵性外国人法の発動

 トランプ敵性外国人Alien Enemies Act of 1798 の発動を宣言した。この法律1798年に制定されたもので、外国から侵攻を受けた場合宣戦布告を受けた場合に発動できることになっている。もともとはフランスとの戦争に備えたもの戦時中日本に対して発動されたが、その後の批判は誰もが知るところ(ダニエル・イノウエなど)。ただし、日本対象にした場合は、まだ額面上の法律要件は満たしていた。

3月16日エルサルバドルへの「強制送還」を実施

 トランプ政権は、強制送還(deportation)と言ってはいるが、別にエルサルバドル人ばかりではないので、強制送還という言葉は適切ではない。棄民とか追放Exileとか)という言葉を使うべきだが、一番近いのはユダヤ人強制収容(Concentration Camp)であろう。よってここでは追放統一する。敵性外国人法は裁判手続きなしに、国外追放身体拘束を可能にする法律ではあるが、宣戦布告を受けた場合、発した場合に限られると解されてきた。トランプテロリストアメリカに侵攻(Invade)していると主張しているので、適用できるのだ、と主張しているが、宣戦布告権限議会にあり、大統領にはないため、一般的に言えば、敵性外国人法が発動する権限大統領にはない。

 3月15日に拘束された一部の人たちの家族から、「拘束の合法性」について疑義があるため、ワシントン連邦地裁差し止めの依頼がなされ、ワシントン連邦地裁はこれを認め、国外追放差し止めるように命令した。ICEアメリカ移民関税執行局)はじめトランプ政権は、追放実施前に口頭でこの命令を受け取ったが、これを無視し、そのまま追放実施したこと確認されている。いわく「文書での命令ではなかった」からだ。その後、文書でも命令も当然届いたが、その際はもう飛行機は出発していたため、引き返せない、との主張に変遷した。

強制送還された人の中には、明らかにギャングメンバーではないと思われる人がいる

 もっとも大きな話題になっているのは、キルマー・アブレゴガルシアだろう。「どうせ不法移民だろう」と思う向きもあると思うので少しだけ背景を書いておく。ほかにも、ゲイのメイキャップサッカー選手レアル入れ墨をしていた)、16歳の、ICE当局ですら、ギャングメンバーと思っていなかった子ら、幾人もこいつは違うでしょう、というのがいるが割愛する。

・キルマー・アブレゴガルシア

 キルマーはエルサルバドルまれ母親ビジネス関係で、MS13と対立するギャングから兄の生命を脅かされたため、家族はまず兄を、次いで2011年16歳のキルマーをアメリカ不法入国させた。アメリカでは、入国の経緯にかかわらず、亡命申請(Asylum Claim)ができる。アクティブ亡命申請は通常入国後1年以内に行わねばならず、ディフェンシブな亡命申請は、「強制送還手続の中で」行うことができる。キルマーは、2019年3月まで、亡命申請を行っておらず、求職活動をしている際に逮捕され、「シカゴブルズキャップかぶっているため、MS13のメンバーである」との嫌疑をかけられた。その後の移民裁判の中で、MS13のメンバーとは認められないとされ、2019年6月米国市民結婚し、その直後に亡命申請をした。アクティブ亡命申請は期限切れのため、認められなかったが、移民裁判所は、キルマーに退去の保留を認め、キルマーは合法的にアメリカ滞在できるようになった。その後メリーランド州で鉄工として働きながら3人の子供を妻と暮らしていたが、3月12日、自閉症の5歳の子を連れているときに、ICEに拘束された(子供10分以内に迎えに来ないと、児童養護施設に送る、と妻に連絡がきたとのこと)。キルマーには犯罪歴はなく、滞在合法的なステータスであり、移民裁判所は、生命の脅威から保護するために、退去の保留を認めていたため、ICE権限で、このステータスを変更することはできない(ICE移民裁判において、控訴しなかったため)。キルマーの妻、ジェニファーは、即座に移民裁判所に、ステータス確認を求め、移民裁判所は、国外退去差し止めを命じたが、無視した。3月24日、ジェニファーと子供たちは、米国政府を訴え、帰国を実現するよう求めた。

 メリーランド地裁との裁判の中で、政府は、「ICE裁判所の命令認識していたが、行政手続き上のミス(Administrative Error)で送還実施してしまった」と認めた。地裁判事は、遅くとも4月7日までに帰国に向けた「取り組みを促進し、実現させる」ように政府に命じた。政府は、「すでに身体管理権は、エルサルバドル移譲されており、米国政府干渉できない」旨の主張をし、4月5日にこの件について控訴裁判所に控訴した。

 4月7日控訴裁判所は、地裁判断を支持し、政府控訴棄却した。判事は、政府拘禁のために支払う他の「契約施設」と同様に、政府エルサルバドルからアブレゴガルシアを含む被拘禁者を確保し、移送する権限を持っていると指摘し、政府の主張を却下した。同日、政府最高裁に緊急上訴(最高裁共和党多数派トランプ政権可能な限り寄り添おうとしている)。

 4月10日最高裁判所は、全会一致で、「米国は、アブレゴガルシアエルサルバドルへの彼の移送を禁じる保留命令対象となっており、したがってエルサルバドルへの移送違法であったことを認める」と事実認定をし、「政府に対して、アブレゴガルシアエルサルバドルでの拘留からの釈放を『促進』し、彼がエルサルバドル不適切に送られなかった場合と同様に彼の事件が処理されることを保証するよう要求する」と命じた。すこし難しいが、ワシントン連邦地裁に対する4月7日意見書を合わせた考えると、最高裁の主張はおおむね以下の通りと思われる。「敵性外国人法を適用するかどうか、という点ではなく、逮捕身体拘束が不当である、という主張であるのであれば、それは裁判所が拘束の停止を求めることではなく、ハビアスコーパス((ハビアスコーパスとは: 拘束されている人が、その拘束が法律に適合しているかどうかを裁判所に審査してもらうための申立て制度のこと。原義は、ラテン語で、身体差し出せ。アメリカ合衆国憲法第1条第9節では、「反乱や国家安全のため必要とされる場合を除き、ハビアスコーパス権利を停止してはならない」と定められている))の範疇として、異議申し立てを受けるべきものである、その場所は拘束された場所メリーランドであるべきであり、エルサルバドル不適切に送られていたとしても同様に処理する必要がある」と言っている。敵性外国人法の要件に踏み込まず、実現させる手段外交であり、地裁権限を超えており、適切ではないとして削除した。これはかなりトランプ政権に寄り添いつつ、ギリギリ、法的正当性担保しようという苦しい命令ではある。とにかく、地裁に一部差し戻され、地裁判事は、促進の状況について、毎日情報アップデートするように命じた。ちなみに、トランプ政権は数日目から、促進状況に変更はない、とだけつ、たえている。

大規模なプロパガンダの変化

 当初トランプ政権は、「裁判所の命令には従うが、もはや米国はキルマーの身体管理権をもっていないのでどうしようもない」という主張をしており、最高裁命令には従う、尊敬しているから、というような発言をした。(("If the Supreme Court said bring somebody back I would do that. I respect the Supreme Court." "Well, I'm not talking about the lower court. I have great respect for the Supreme Court."))4月11日ごろから、主張が変遷する。関税プランを立てたといわれるスティーブミラーは、「アブレゴガルシアは、MS13のメンバーであり、誤って送還されたわけではない。適切な場所にいるのだ。」というような主張をし、このような主張は「9-0で最高裁で支持された」と主張しだした。増田は当初何をいっているんだ、と思ったが、どうやら、実現せよ、との文言がないこと、追放自体ダメだ、と言っているわけではなく、追放した者にも、ハビアスコーパスによって異議申し立て権利があるという点のみを切り取っているらしいとなんとか理解できた。実際には9-0で負けているし、事実認定として、キルマーは保護されている、ため、移送違法であったと認められている。

 しかミラーを皮切りに、レヴィット報道官、ポンディ司法長官ノーム国土安全保障長官バン副大統領などが、同様の主張をし始めたのをみて空恐ろしくなってきた。彼らの中では、ダブルシンクがすみ、キルマーはMS13のメンバーであり、強制送還は適切、この主張は最高裁でも認められた、と整理されてきたのだ。

 レヴィットは証拠を求められても、「あいつらはテロリストで、私はその証拠を今朝見た、トランプ米国民を守った」、「まるでファーザーオブザイヤーのような扱いをしているが、アブレゴガルシアは、MS13のメンバーテロリストだ」というようなことしかわずしまいには「もう質問はないみたいだね」と言って会見を打ち切る、などの行動をとるようになった。

 バンスは「アブレゴガルシアテロリストとして有罪判決を受けた」と虚偽を堂々と述べた。

 ポンディは「これがアブレゴガルシアに関する証拠です」といって、誤って「犯罪歴なし」、と書かれた資料アップロードし、失笑を買ったのち、最初移民裁判で、シカゴブルズキャップを被った、明らかなラテン系ギャングである、という、別件の汚職逮捕された警察官の主張が書かれた調書を公開した。

 トランプは「以前最高裁命令には従う、と言っていたのに、なぜアブレゴガルシアのような例で帰国させようとしないのか」という質問をしたCNNに対して「なぜおまえらは、「テロリスト国外追放して、素晴らしいことになった」と言わないのだ。だからおまえら放送は誰も見ていないんだ」と記者をあざけった。またFoxインタビューの中で、「最高裁は9-0で強制送還の件は支持し、我々は(精神的)勝利したんだ、ニュース番組を見ていると知らないと思うけど」というような発言をしていた。

 

次はホームグロウンの番だ

 トランプエルサルバドルのブケレ大統領面談した際、カメラが回っていると気づかず、「次はホームグロウンの番だ。建物が足りないな、あと5つぐらいはつくってほしい」と述べている。また、「重大な犯罪者であれば、エルサルバドル米国人を送ることは大賛成だ」とも述べている。対テロ大統領補佐官であるセバスティアン・ゴルカは、「誰であれ、キルマー・アブレゴガルシア擁護しようとするものは、テロリストであり、訴追される」と述べた。

民主党上院議員ヴァン・ホレンがキルマーに面会でき、キルマーの件単独では、ひょっとしたら解決が見えるかもしれないが、正直、トランプ政権の終わり方は、日本人が想像しているよりはるか遠くまで行っていることは知っておいてほしい。

  • まともなアメリカメディア

  • プーチンたすけて🥺

  • ほんとスポークスマンの発言を見ていて、ダブルシンクキメてないと精神保てなそうと思った。 日本の政治家や公務員に対してもそう思ったことあったけど、今のアメリカはレベル違う...

  • 俺もずっと言ってんだけど 「まさかアメリカの大統領が単なる悪人のわけがない」とか日本人は思ってるからこういう裏があるんだとか色々言い出してるけど あれ単に「自分ファースト...

  • ファクトチェック原文ママ 要約 リンク先(https://anond.hatelabo.jp/20250419102316)は、はてな匿名ダイアリーに投稿された記事で、トランプ政権について以下のような主張が述べられてい...

  • けどアメリカ人にとってはこの在り方 (増田のいうところの法の破壊やダブルシンク) の方が好ましいからこそトランプは選ばれたんだよね。 共和党も、予備選やらで何重にもチャン...

  • コレコレ、トランプに狙われとるんか どんな暴露ネタ持っとるんや

  • 自民党と維新の中国様属国化計画の数々の方が10000倍ヤバいのに

  • アメリカの政治が途上国以下になってしまった。 このまま米国株に投資していてもいいものだろうか。

    • どの国がマシかを考えるのが面倒ならオルカン一択やろなあ…😟

  • アメリカは”デストピア”にまっしぐら あいつら未来に生きてんな

  • SNSの時代は 知能低めの他人を馬鹿だアホだと嘲って放置してると痛い目を見る 敵対するなんてとんでもない 仲間に引き入れないと数で負ける そんな時代

  • バカとキチガイだらけのアメリカという国が曲がりなりにも世界のリーダーのような体面を保てていたことのほうがおかしいのかもしれない。トランプはアメリカ人のアメリカにふさわ...

  • んで結局このエントリーが言いたいのは「犯罪者を追放するな」だろ。 そんなカスの意見なんかもうどうでも良いフェイズだからトランプ政権が生まれたんだぞ。 何周遅れだ。

  • 今後は法の抜け穴を紹介して不法滞在を増やそうとする人間も共犯で逮捕するべきだな。 犯罪の幇助だろ? れっきとした犯罪者の一員の自覚を持て。

  • 「トランス女性は女性」並みのダブルシンクだな…

  • だーれもよんでいないんだよなあ

  • それでもトランプ支持してるアメリカ人がめちゃくちゃ多いあたり、民主党どんだけ嫌われてるんだって話なんだよな トランプの方がマシだと思わされるくらいに酷かったってことだろ...

  • 誰かが言ってたが バイデンは「婆さんや、メシはまだかのう?」と言うタイプのボケ老人で トランプは誰彼構わず「てめえ、俺の金を盗みやがったな!」とわめき散らすタイプのボケ老...

  • トランプが誕生した原因はアメリカ国民の中での絶望的な格差拡大だと思うのだが、そのくせ国民は反共・反権力が第一で政府による再分配や規制政策なんて死んでもごめんだと感じて...

  • そもそもトランプだけの話じゃなくてさ、数は少なくなっていたけどそのような米国(米国人)が存在していたって事なので、 これもまた本来の米国の姿なんじゃないの。

  • アメリカ自体格差がとてもひどいのに富の再分配や社会保障の充実は拒否るとかいう謎の国なので、向こうの国民にはお似合いなんでしょ

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