2025-08-12

東京(本物)の住居の適正額はいくら

――「時間で払う家賃」を可視化して、数字で殴らないやつ


## 要旨

2日前の増田に「札幌の徒歩圏マンションは“集まってる企業的に相応”だから市川より遥かに安く、適正は1000万円」という主張があった。けれど、それって企業立場擬人化されて書いてない? もし札幌・中心徒歩圏=1000万円が本当に適正なら、「じゃあなぜ片道60分の移動を続けるの?」という問いに自動で突き当たる。

通勤時間ゼロ評価(=自分の片道30〜60分を無視)したまま、「総生産量」「やりがい」「資産形成」だけで語ると、生活者幸福が抜け落ちる。

この記事生活者視点で「適正額」を試算する。キーワード時間家賃(じかん-やちん)――家の値段=立地+広さ+“毎日むしられる時間”だ。

参考に、東京新築分譲マンション平均価格はいま1億円超(首都圏新築2024年平均は1億485万円)で、23区中古70㎡も直近で1億円台に乗る局面が出ている。これが生活者にとって“適正”なのかを、時間代替地(高松札幌)で測り直す。



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## 前作のダイジェスト

流入が止まった大都市未来生活者メモ


人口移動の足元:2024年東京は依然として転入超過だが、伸びは鈍化。23区転入超過は回復したものの、年齢階層ではムラが目立つ。


年齢構造の変化:20代流入が続く一方、30代は2024年10月以降転出超過が指摘される(統計局資料)。家族形成期が“中心で暮らす難度”を物語る。


通勤現実東京圏の鉄道定期利用者の平均片道所要は67.7分。時間消費が生活水準を直撃している。


企業はどこへ?:「本社移転」は2019年までは東京転入超過の年もあるが、機能分散地方研究製造BPO)が同時進行。2020年以降は一貫して東京都~関東から転出超過で、“本社東京集中”の一枚絵では語れない段階。




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## 企業擬人化(をほどく)


元増田ロジックは「企業視点での総生産性最大化」だ。東京(本物)は取引密度が高く、希少な専門職面接効率も良い。企業が払う地代なら説明がつく。

でも生活者にとっては違う。時間寿命を燃やす通勤毎日課金東京の高い貨幣地価は、時間地価(言い換え:タイム地価)で割って再評価すべきだ。


命題:家の“適正額”=「代替都市で同等生活を得るコスト」+「東京で失う/得る時間価値」の現在価値

まり、“通勤税(時間)”を内生化した価格生活者の適正。


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## 高松比較した「適正額」:市営住宅という共通スケール


### ① データの杭

高松市の公営(県/市)住宅家賃帯は1.6万〜4.3万円台(間取り3K/3DK含む)。中心至近ではない(磨屋町2.0km, 家to目的28分)が、市内要所へのバス移動で日常機能が完結する価格帯が現実存在する。

東京新築分譲平均は1億485万円(2024年)。23区中古70㎡は2025年5月に1億88万円の局面


### ② 「公営家賃資産価格」への換算

家賃2.5万円/月(年30万円)を表面利回り6%で割り戻すと、約500万円の資産価値(30万円÷0.06=500万円)。都雇圏人口50万人以上では享受対象は飽和している故, 機能“到達”が28分程度で満たせる.「28生活」の最低ラインの再取得コストはこの桁になる。

> ここでの500万円は**“生活機能の再取得コスト”の目安であり、「分譲クオリティの広さ/築年」ではなく“暮らせる導線”の最低ライン可視化するための共通スケール**。


### ③ 東京(本物)の現実との乖離

東京で家→目的28分のファミリー住戸は、1億円級に普通にぶつかる。同じ“到達時間”を買うためのコスト差は桁違いだ。




### まとめ(高松東京比較

生活機能28分を買うコスト:500万円(公営最廉価相当スケール)vs 1億円級(東京市場取引

乖離倍率:20倍+(レンジ2024倍はエリア次第)



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## 札幌1000万円論の検証

札幌・中心徒歩圏=1000万円が適正」は、市場実勢と乖離している。直近の市況では、札幌市の中古70㎡相場は数千万円帯が実務レンジ。中心区でも1000万円フラットは築年・立地条件が強く制約された例外的ピン点で、“徒歩圏の標準像”とは言い難い。1000万円を普遍の“適正”と言い切るのは危うい。



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## “時間家賃”で殴る:通勤差のNPV計算

仮定

地方中核(高松など)での家→主要目的地:片道15分

東京(本物)の平均的な通勤:片道67.7分(鉄道定期利用者平均) → 差=52.7分

往復差=約105分/日、年240日稼働=252時間/年余計に失う。

時間価値Value of Time):1,500円/時(便宜の中央値仮定


年間の“失う時間価値”=252h×1,500円=378,000円/年

永続価値(r=3%)**で割り戻すと、約1,260万円。


> つまり、同じ暮らしを得るために、東京は追加で1,260万円の**“時間家賃”を払っているのと同じ**。

本来ならその分だけ“家の適正価格”は下がる――生活者の適正は、企業の適正より軽くなる。

(注)平均通勤時間地域職種で大きくブレるため、自分通勤実測でNPVを差し替えてほしい。





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## 所得差を織り込む(でも“2割プレミア”が関の山


「でも東京賃金が高い」という反論に備える。

平均年収東京都471万円、関東全体451万円。地方圏は380〜410万円台が中心。

最低賃金東京1,163円、香川970円。下支え賃金でも約20%差。


結論賃金プレミアムは1〜2割台が実務レンジ。“時間家賃”のNPV(上の例で約1,260万円)を相殺するには弱い。住宅価格の倍率20倍を正当化できる材料にはならない。



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# じゃあ、**東京(本物)の“適正額”**はいくら?(生活者版の答え)


## ケースA:中心“徒歩4分圏”の70㎡

代替地(高松中心)新築70㎡で4,000万円級が十分に成立するマーケット(市内中心の機能密度暮らしが完結)。

東京プレミアム(雇用機会・エンタメ在庫”)を2割上乗せしても、4,800〜6,000万円が、東京(本物)の中心徒歩4分圏(銀座, 上野, 新宿等徒歩4分内)の生活者の適正レンジ

実勢(新築平均1.6億円、23区中古70㎡1億円局面)との差:+10,000〜+11,200万円。



## ケースB:家→目的地“28生活”のファミリー

高松公営家賃2.5万円→利回り6%で500万円(**“生活機能再取得”**の最低スケール)。

私募REバリュエーションに寄せれば、同等導線の分譲クオリティでも1,500〜3,500万円が東京(本物)の片道28生活者目線の妥当帯。

実勢(1.2億円級)との差:+8,500万〜+10,500万円。



## 総括

> 総括:企業の最適(在庫密度)で決まるのが東京の“市場価格”。

生活者の最適(時間×導線)で決めると、“適正額”は“市場”の半額以下に沈む。


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## 「間をとる」が適正? → **そんなことない。上限“2割増”**まで

企業の“在庫経済”と生活者の“時間経済”の半々で折衷したくなる。

しかし、時間家賃のNPVは日々確定的に出費される損失だ。一方、企業在庫密度個人享受上限(1日0.5GB仮説のような情報処理限界)で逓減する。だから折衷ではなく生活者重みで決めるべき。**“上限2割プレミア”**がまだ良心的だ。



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## 実際に“減っている30代”のシグナ

統計局自身資料で、20代転入、30代は転出超過が明記される。家族形成期の住居コスト時間家賃臨界を超えると、転出が起きる――“生活者の適正”に市場価格が合ってないシグナルだ。



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# 札幌高松東京の3点測量で見えたもの

1. 札幌1000万円は市場中央値でも生活者の適正でもなく、例外ピンの一般化。

2. 高松公営家賃(磨屋町2.0km家to目的地片道28分)は**“28生活”の最低再取得コスト見える化する良い定規**。

3. 東京(本物)の1億円は、企業在庫密度の影で時間家賃のNPVを踏みつけにしている。


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## 生活者への実務ガイド(3行)



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## さいごに:適正額=“暮らし可処分時間”が決める

東京(本物)の“市場価格”は立派だ。けれど生活者の適正額は**“時間”を入れた瞬間に半額以下に落ちる。札幌1000万円論も、高松500万円スケールも、東京1億円も、同じ定規(時間家賃)で測ろう。

家の値段は寿命の使い方**で決まる――それだけの話だ。



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## 参考データ・出典

首都圏新築分譲マンション平均価格2024年1億485万円):不動産経済研究所まとめ記事

東京23区中古70㎡が1億円局面野村不動産アーバンネット東京カンテイ提供データ)。

東京鉄道定期利用者平均片道67.7分:MLIT資料

高松公営住宅 家賃帯(1.6万〜4.3万円台):香川県/高松資料、MLIT資料

平均年収doda最低賃金厚労省労働局東京1,163円・香川970円)。

30代転出超過 :統計局資料

企業本社移転の年次動向(参考):帝国データバンク




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## 付録:4分・5分・6分“徒歩圏人口”の勘どころ

徒歩4分=約320m半径、面積は約0.32km²。自治体レベルでは住居密度2万人/km²が限界だが、部分的にはもっと詰め込める。特に二階建てアパートメインで2万人/k㎡を達成していた中野区と違い、2020年以降は都雇圏50万人でも中心は15階前後マンション林立だ。つまり密度7倍(14万人/㎡)。故に“徒歩4分内6万人”。徒歩圏の議論は半径×密度で都度計算を。(この項は一般式の説明であり、具体都市密度用途地域で大きく変わります



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## まとめ一行

時間家賃”をチョキっと足して引けば、東京(本物)の住居の適正額は――



市場1億円は在庫経済の値付け**であって、暮らしの値付けじゃない。

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