脱炭素政策と整合性が取れず、代替財源の確保も難しい。問題を棚上げしたままガソリン税を引き下げては禍根を残す。
自民、立憲民主など与野党6党が、ガソリン税に上乗せされている暫定税率の廃止で合意した。廃止法案を秋の臨時国会で成立させる方向で協議を進めている。
野党側は参院選で物価高対策として暫定税率廃止を公約に掲げた。衆参両院で過半数割れした与党が野党の主張を受け入れた。
ガソリン税は本来、1リットル当たり28・7円だが、暫定的に25・1円が上乗せされている。
もともと道路整備の財源確保が目的だった。2009年に上乗せ分を廃止する方針が決まったが、代替財源が手当てできず「当分の間」の措置として維持されてきた。自動車業界は「利用者の負担が重すぎる」として暫定税率の早期廃止を求めている。
だが、単純に廃止することには問題が多い。
まず国と地方で年約1兆円に上る税収減の穴埋めが難題だ。野党側は税収の上振れなどを当て込むが、景気動向に左右され、安定財源とは言えない。巨額の財政赤字を抱える中、代替財源を明示しなければ無責任だ。
政策としての妥当性にも疑問符が付く。
政府が22年1月から支給するガソリン補助金は「バラマキ」と批判されている。移動の足として車が不可欠な地方の住民だけでなく、富裕層にも恩恵が及ぶからだ。
足元では原油価格が下落傾向にある。ガソリン優遇策を拡充する理由は乏しい。
看過できないのは、地球温暖化対策に逆行することだ。大幅な値下げでガソリン消費が促されれば、二酸化炭素(CO2)の排出削減の取り組みが後退してしまう。環境性能に優れた電気自動車などの普及も妨げかねない。
CO2に値段を付け排出削減を促すカーボンプライシングなど、エネルギー関連税制全体を見直す中で、ガソリン税のあり方を検討するのが筋だ。
税制の見直しには、公平な負担や環境への影響など多様な視点が欠かせない。衆参両院で与野党の勢力が逆転した中、野党にも責任ある対応が求められる。