日本は「男性を罰したくない国」信田さよ子氏 巧妙化するDVの実態
社会は家族の暴力を隠蔽(いんぺい)してきた――。
家庭内やカップル間で起きる「ドメスティックバイオレンス(DV)」は、女性に対する暴力の中でも、最も潜在化しやすい。
2000年代以降、国もDV対策を進めてきたが、公認心理師の信田さよ子さん(79)は「DVはなくなるどころか、ますます巧妙になっている」と危機感を抱く。
日本の政治がDV対策の「本丸」に手をつけず、聖域化してきたからだ、と憤る信田さんに聞いた。
日本のDV対策の根本的な欠陥とは?【聞き手・山本萌】
<主な内容>
・ないことにされた「家族の暴力」
・イクメンがDV加害者になるとき
・「自己啓発的DV」の実態
・日本が最も手をつけたくないこと
・暴力は加害者を再生産する
1947年施行の日本国憲法で初めて規定された男女平等や女性の人権。戦後80年を女性の視点から捉え直す企画を随時掲載しています。関連記事は「女性がみた戦後80年」ページへ
「愛情」から「暴力」へ
――信田さんは、1990年代からDV被害者のカウンセリングを始めています。当時はどんな社会状況だったのでしょうか。
◆欧米では70年代初頭、夫からの暴力被害から逃れる女性たちのシェルター(避難所)設立運動が広がりました。
80~90年代は世界的に家庭内の人権保障への問題意識が高まった時代です。
89年には国連で「子どもの権利条約」が、95年の第4回世界女性会議では「女性の権利は人権である」とうたう北京宣言がそれぞれ採択されました。
親密な関係における男性から女性への暴力が「ドメスティックバイオレンス(DV)」という人権問題として認識されるようになったのです。
一方、日本ではどうだったか。
<家族には暴力と呼ばれる行為はない>
<親は子どもを、夫は妻を「しつけ」ている>
そんなふうに捉えられていた時代です。
背景にあるのは、明治以来の家父長制的な家族像です。
戦前の明治民法が定めた家制度では、家族は戸主の命令に従い、長男が戸主の地位や財産の相続権を持っていました。
女性は法的な無能力者とされ、夫の許可がなければ就労や契約はできませんでした。
戦後、家制度は廃止されましたが、男性を家長と見なす風潮や家庭内の上下関係が消えたわけではありません。
家長が家族を殴ろうが怒鳴ろうが、それは愛情ゆえ。殴られる側に問題がある、という認識が浸透していたのです。
――日本では、90年代後半になってようやくDVや児童虐待が社会問題となります。
◆日本のフェミニストたちの地道な運動もあいまって、2000年代初頭には児童虐待防止法やDV防止法が成立しました。
家庭で暴力が起きていることを国家が初めて認めた、ともいえると思います。
しかしDVは全くなくならず、むしろますます巧妙になっている、と危機感を持っています。
DV加害者は家…
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