高市政権の積極財政「賢い支出」を、減税は物価高助長 経済学者が注文
エコノミクスパネルの佐藤主光氏×渡辺努氏

日本経済新聞社は6日、高市早苗政権の発足を受けて経済学者による対談を実施した。一橋大学の佐藤主光教授(財政学)は政権が掲げる「責任ある積極財政」について、「財政規模は膨張させず、ワイズスペンディング(賢い支出)を求めるべきだ」と述べた。ガソリン減税をはじめとした財政拡張は「需要を増やすことになり、物価高を助長する」とくぎを刺した。
渡辺努・東京大学名誉教授(マクロ経済学)とのNIKKEI LIVEでの対談で主張した。2人は日経と日本経済研究センターによる経済学者向け調査「エコノミクスパネル」に参加している。
インフレによる税収増をどうみるか
高市政権は11月下旬にも物価高に対応する経済対策をまとめる。これを受けた2025年度補正予算案は10兆円超とする案もあり、ガソリンの旧暫定税率廃止による巨額減税も与野党で合意している。
佐藤氏は「インフレの時代に減税して需要を増やせば、供給も増えないかぎり、モノの値段は上がってしまう」と懸念を示した。渡辺氏も「市場の価格メカニズムをゆがめると資源配分に影響が出るという見立ては米国の経済学者にも共通する」と述べ、減税や補助金をけん制した。

その上でどのような財政出動が「賢い支出」なのか。高市政権は人工知能(AI)やエネルギー安全保障など17項目を投資の重点分野に掲げる。佐藤氏は「重点投資をするならば、優先度の低い分野の予算項目は抑制していくべきだ」と述べ、メリハリのきいた支出を求める。「金利ある世界で財政赤字を増やせばさらに金利が上がり、民間投資にもマイナスになる」と財政拡張の副作用も挙げた。
渡辺氏はインフレと財政の関係に注目する。同氏によれば、インフレでお金の価値が下がると借金が実質的に目減りするため、政府に置き換えると180兆円の債務が浮くという。借金が減った分は支出を増やす余地が生まれるが、「あくまで一過性なので、使い道については政治家、国民を含めた議論が必要だ」と話した。これについて佐藤氏は、「物価高で税収も増えたが歳出も高止まりしている。一時的な収入は国債の償還に充てる戦略性があってもいい」と財政の健全性を重視した。
賃上げ税制では意見わかれる
日本経済の成長に政府が果たす役割も論点となった。渡辺氏は「AIへの投資で、人手不足による労働供給の制約を緩めることは大切だ」と指摘した。その上で「市場メカニズムに委ねるのが鉄則。政府がAIに投資するというのには抵抗がある」と疑問を呈した。佐藤氏も「ここ数年、日本は政府の支援が当たり前の産業構造になっている。支援が慢性化すると補助金依存の体質になる」と述べ、「民間主導の経済成長」を求めた。
意見がわかれる点もあった。高市政権は企業向け減税(租税特別措置)の総点検を掲げ、賃上げ促進税制の縮小も選択肢に挙がっている。佐藤氏は「賃上げ税制はデフレ期には意味があったかもしれないが、インフレになれば税制がなくても賃上げは進む」として縮小を支持した。対して渡辺氏は「下請けの中小企業は価格転嫁ができないのに賃上げを求められている。転嫁できない企業に応急処置的にお金を出す発想は持つべきだ」と支援に理解を示した。

日本経済新聞社と日本経済研究センターは約50人の経済学者に政策への評価を問う「エコノミクスパネル」を始めました。専門家の意見分布をグラフで確認し、経済や政策に関するコメントも閲覧できます。
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