佐々木朗希、チーム一丸の努力で復活 連覇の「ラストピース」に
スポーツライター 杉浦大介

今季を通じて迷走を続けた米大リーグ・ドジャースの佐々木朗希が、1年で最も大事な時期に「救世主」と呼ばれるようになるとは誰が想像できただろうか。
レギュラーシーズン最終盤に故障から復帰した佐々木は、ワイルドカードシリーズの第2戦、地区シリーズの第1戦のそれぞれ九回に登板。特に10月4日、フィリーズと対戦したゲームでは5-3でリードという接戦にクローザー役でマウンドに立ち、1イニングを無失点に抑えた。
「2点差で前回より点差がない中、ランナーが1人出て一発が出たら同点という怖さがありましたが、ゾーンで勝負して結果的にゼロで抑えられました」
試合後、フィールド上でテレビ局のインタビューを受けた際の佐々木の言葉は控えめながら自信を感じさせるものだった。

ドジャースの指揮を執るデーブ・ロバーツ監督はまだ佐々木を正式に「抑えの切り札」に任命したわけではない。ただ、ここまでの投球内容を見る限り、もはや不可欠の戦力であることに疑問の余地はない。今季を通じて苦しんできたドジャースのブルペンの中で、今後も重要な場面で起用され続けることは間違いないはずだ。
ここまで長い1年だった。日本での開幕シリーズで初登板という華々しいスタートを切ったのもつかの間、序盤戦はなかなかいい結果が出せないまま停滞。5月13日には「右肩のインピンジメント症候群」で負傷者リスト(IL)入りし、以降は長い離脱を余儀なくされた。
8月からマイナーでリハビリ登板に臨んだものの、当初はなかなか球速も上がらなかった。9月に入った頃には、佐々木はこのままマイナーで今季を終えると考えたファン、関係者がほとんどだったのではないか。ところが――。
「今秋限定」という取り組みでリリーフ役に転向した9月中旬以降、その力強い投球には見事なものがある。その背景には、チームスタッフと一丸となった必死の取り組みがあった。
ドジャースのアンドルー・フリードマン編成本部長は10月1日、これまでの経緯を振り返り、「フォームが崩れたのは脇腹の故障からくる代償。それが肩の張りにつながった」と佐々木がロッテ時代の2023年にも痛めた脇腹をまたも負傷していたことを明かした。そんな厳しい経験を経て、今夏以降は本来の動きを取り戻すための時間になった。
コーチ陣と「全身の動きをかみ合わせる」ためにフォームのチェックを実施。同時にリハビリ期間中にはストレングスコーチの手を借りた上で負荷をかけ、メジャーで戦えるだけの身体に強化した。それらの努力で佐々木はたくましさを増し、シーズン終盤の復調が可能になったのだった。

「今の朗希はまるで別人のように見える。ブルペンでの役割は1イニングか2イニングに絞られているから、シンプルになったと思う。その分、自信も増して、迷いのない投球ができている。そしてもちろん、シーズン序盤に比べて球の力も上がっていた。彼は今季、多くを学んだと思う。私は彼の成長、そしてここまでやってきたことを本当に誇りに思っている」
これまでのプロセスを見守ってきたロバーツ監督のそんな言葉も胸に響いてくる。そして、現状では短いイニングで爆発的な出力を発揮している佐々木は、ブルペンに助けが必要だったチームに最善のタイミングで戻ってきたのだろう。
当初、佐々木自身は「(リリーフは)適性があるとは思わない」と述べていた。確かに試合中に身体、肩を作る調整や準備は容易ではないものの、順調にマウンドに立ちさえすれば、その100マイルの速球と落差の大きいフォークは相手打者にとって脅威の武器である。
これだけの持ち球に1、2イニングで対応するのは容易ではない。特にまだ1年目の佐々木のスカウティングリポートは限られているだけに、今秋のプレーオフでの背番号11は貴重な存在であり続ける。
「明後日も試合あるので、もう1勝してLAに帰れたらと思います」
地区シリーズ第1戦で初のセーブを挙げた4日のフィリーズ戦後――。新たな守護神のコメントには早くも大舞台でのリリーフで経験を積んだ投手の貫禄すら感じられた。紆余(うよ)曲折を経てプレーオフにたどり着いた「令和の怪物」は、ワールドシリーズ2連覇を目指すドジャースの「最後のピース」へ。佐々木の逆襲のストーリーはまだ始まったばかりなのかもしれない。








