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高市首相「戦略的あいまい」貫けず 台湾有事答弁、手の内さらす懸念

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高市早苗首相は10日の衆院予算委員会で、台湾有事を想定した日本の防衛体制に関する7日の自身の答弁に「反省点」があると述べた。日本が集団的自衛権を行使する具体例をあいまいにする戦略に徹しきれなかった。踏み込んだ答弁は相手に手の内をさらし、抑止力をかえって低下させかねない。

10日の衆院予算委で論点となったのは7日の首相と立憲民主党の岡田克也氏とのやりとりだ。

岡田氏は台湾とフィリピンの間の海峡封鎖という具体的なシナリオに日本がどう対応するかを問うた。首相は「戦艦を使って、武力の行使を伴うものであれば、どう考えても存立危機事態になり得る」などと答えた。

存立危機事態とは日本と密接な関係にある他国が武力攻撃を受け、日本の存立が脅かされ、国民の生命に明白な危険がある状況を指す。事態の認定は日本が集団的自衛権を行使して攻撃を受けた国とともに反撃する前提となる。

10日に質疑に立った立民の大串博志氏は他国との関係などの観点から首相に撤回や取り消しを求めた。首相は「政府の従来の見解に沿ったものだ」と訴え、拒否した。そのうえで「今後、反省点としては、特定のケースを想定したことについてこの場で明言することは慎もうと思っている」と語った。

どのような状況が存立危機事態にあたるかは「政府がすべての情報を総合的に判断する」と繰り返した。7日もこれと同じ趣旨の答弁をしたものの、10日は具体例に踏み込むのを控えた。

台湾有事は状況によっては存立危機事態に当たりうるとされる。仮に中国が台湾を武力侵攻し、米国がそれを防衛しようとした場合、日本領内にある在日米軍基地が攻撃される可能性は高い。立民の岡田氏も質疑で台湾有事での存立危機事態が「絶対ないというつもりはない」と言及した。

歴代の首相はどんな状況が存立危機事態にあたるかの線引きをあえてあいまいにしてきた。具体例と自衛隊の行動を結びつける議論を国会で公にすれば、侵略を考える相手に手の内を明かすことにつながる。答弁に手足が縛られ状況に即した判断がしにくくなる恐れもある。

首相経験者の一人はどういうケースが存立危機事態にあたるかという議論に関し、国会で「言っていいわけがない」と断じた。「政府は普段から考えておかないといけないが、表で言ってよいことではない」と言明する。

慶応大の神保謙教授は与野党が国会で存立危機事態を巡り論戦を交わすことについて「プラスとマイナスの側面がある」と分析する。日米同盟の一体性を中国に明示するメッセージになれば「中国による同盟分断の計算の余地を狭めることになる」と説明する。

半面、具体的なシナリオや法律の線引き論に入り込むリスクにも触れた。「向こうが逆算して段階的な挑発のメニューをつくれば国益にマイナスになる」と話す。

小泉進次郎防衛相は10日の予算委で野党側の質問の立て方を批判した。「岡田氏は具体的な事例について詳細な基準を設けて事態認定をすべきだと言っているのか」と指摘した。存立危機事態の認定は「すべての情報を駆使したうえで政府として判断する。それに尽きる」と強調した。

首相は7日の答弁で「戦艦」という用語を使い発言した。戦艦は通常、戦前の海戦によく用いられた巨砲を搭載する軍艦の一種を指す。現代の海軍はこうした「戦艦」は保有せず、空母や戦闘機、ミサイル、無人機などを組み合わせて防衛する体制を組む。

防衛省が現代戦の文脈で「戦艦」といった用語を使うことはない。首相の発言は防衛省が用意した答弁ではなく、自身の言葉だったことをうかがわせる。

神保氏は「言葉を精査してシグナルを送る覚悟がないと抑止力を使いこなせない」と警鐘を鳴らす。

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