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JSRジョンソンCEO「非上場化で再編、求めるのは規模」

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半導体の回路を母材のシリコンウエハーに転写するのに必要な感光材(フォトレジスト)。先端品向けで世界シェア首位のJSRは6月、政府系ファンドの産業革新投資機構(JIC)による1兆円規模の買収で合意、非上場化を決めた。JSRのエリック・ジョンソン最高経営責任者(CEO)に狙いと今後の戦略を聞いた。

◇  ◇  ◇

――なぜ、非上場化を決めたのでしょうか?

「規模の大きいグローバルな競争相手に対し、日本の競争力が持続可能かどうか、中長期的に成長できるかどうか。それを考えた時、JSRから政府系ファンドの産業革新投資機構(JIC)にアプローチして、非上場化することを決めた。国から買収の意向があったわけではない」

「非上場化によって狙うのは再編だ。株主をJICだけとすることで迅速な意思決定と権限を持って主要企業との対話を加速させることができる」

――JICに打診する前に自ら再編を他メーカーに持ちかけなかったのでしょうか?

「JIC傘下になることを決める前から、ハイレベルな形で業界のプレーヤーとも対話をしてきた。(相手の中には再編を)前向きに進めたいという会社もあったが、最終的にいろいろな理由があってできなかった」

――なぜ、再編が必要なのでしょうか?

「日本の素材メーカーは、半導体関連だけに限らず中小規模の企業が多い。経営も非効率なメーカーが多い印象がある。これは、長年にわたって(国や市場から)守られてきたからと言えるのではないか」

「再編で我々だけが生き残ろうとは思っていない。食うか食われるかの業界において、規模を求め、経営を効率化することで顧客に最善のソリューションを提供する。これが目的だ」

――台湾積体電路製造(TSMC)などチップメーカーは寡占が進み巨大化しています。バーゲニングパワー(交渉力)を持つ意味でも再編が必要なのでしょうか?

「それは考えていない。我々は顧客に最大の価値を提供する技術を持っており、取引している。我々が求めるのは規模であって、あくまで競合と戦うためだ。21年、(最先端半導体の製造に欠かせない)極端紫外線(EUV)に対応した最新技術のフォトレジストを手掛ける米国のインプリアを(約450億円で)買収した。技術と規模の面で価値のある買収だった」

――日本と海外の半導体材料メーカーの違いは何でしょうか?

「日本の材料メーカーは常に最先端で、多くの強みを持っている。何層にもわたるすり合わせの工程があり、技術と投資の参入障壁は高く魅力的だ。EUVや(微細回路での電流を効率的に制御できる)『ゲート・オール・アラウンド(GAA)』など我々は顧客の最先端の技術をサポートするようなロードマップを持っているが、技術をものにするためにはコストと時間がかかる。技術を買うための戦略的なM&A(合併・買収)もチャンスとしてあるだろう」

材料や装置、有力コンソーシアムへの参画不可欠に


先端半導体の材料は複雑な材料設計や素材の組み合わせ、製造工程のすり合わせなどが肝となる。開発や製造プロセスはブラックボックス化できるため、海外メーカーや中国勢は簡単にはまねできない。(シリコンウエハーに塗布する)フォトレジスト(感光材)や電子ビームで回路パターンを描いたフォトマスクなどで日本の優位性はしばらく続くだろう。

ただ、レガシー(旧世代)の成熟品であれば、論文や特許などを参考に「リバースエンジニアリング(製造ノウハウの解析)」によって中国メーカーなどが生産できる可能性がある。近年、(素材に関わるビッグデータを機械学習などによるAIで解析し新材料を開発する)マテリアルズインフォマティクス(MI)も進展している。MIによって成熟品を短期間で作れるようになれば日本勢に追い付くスピードは速まるかもしれない。

日本の装置メーカーは売上高は増えているが、世界シェアは落としており、市場の平均成長率以下の成長にとどまっている。もちろんSCREENホールディングスの洗浄装置やレーザーテックのEUV向けマスク検査装置などシェアが高い装置もある。だが、露光や成膜装置などでは欧米企業が100億ドルを超える市場での世界シェアを独占しており、シェア低下はこの分野での技術蓄積の差にあると考えられる。

製造装置は前工程での微細化だけではなく、(前工程で製造したチップを実装する)後工程でも需要を開拓するチャンスがある。チップ同士をち密に並べ微細な配線を施す「2.5次元実装」や縦に積層する「3次元実装」で、日本の装置、材料メーカーはこれまで培ってきた前工程の技術を活用できる。日本にとっては有望な研究開発テーマだ。

後工程のイノベーションは装置、材料メーカー単独ではなく、半導体のファウンドリー(受託製造会社)、大学・研究機関との連携が重要で、そうしたコンソーシアム(技術組合)に国が積極的に資金を供給すべきだ。

日本の材料、装置メーカーが永続的に勝ち残るためには、実績のある技術でも常に基本に立ち返って見直すことが欠かせない。また、パワー半導体や(非微細化の)レガシーでも新たな市場が立ち上がっているが、需要や市況のサイクルは異なる。材料、装置メーカーは各半導体の特徴に合わせて組織を分けて、きめ細かく事業をマネジメントする必要がある。

いかに優れた材料や装置技術でも、チップ上で花開いてはじめて市場価値を生む。その意味で顧客や他の工程に位置する材料、装置メーカーとのアライアンスは必須。有力なコンソーシアムにしっかり入り込んでおくことが欠かせない。

(日経ビジネス 上阪欣史)

[日経ビジネス電子版 2023年10月19日の記事を再構成]

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