H3ロケット失敗「部品の確認不足」 文科省調査報告書

国の次世代大型ロケット「H3」初号機の打ち上げ失敗について、文部科学省の専門家会議は26日、原因に関する調査報告書をまとめた。使用実績のある部品の確認不足があったと結論づけた。今後は2号機を政府の工程表通り2023年度中に打ち上げられるかが焦点となる。
3月の失敗以降、専門家会議は計9回の会合を開き、宇宙航空研究開発機構(JAXA)から報告を受けて結論をまとめた。26日午後、文科省の対策本部に報告書を提出した。
H3の初号機は、機体第2段のエンジンの点火が確認できず発射から約14分後に指令破壊した。これまでの調査で、第2段で過大な電流を検知したため、点火の信号が送られなかったと分かっている。
JAXAは異常な電流が検知された原因を3つに絞り込み、2号機では発生を抑える対策を打つ。今回の報告書では対策の方向性を「原因究明に一定のスピード感が求められるなか、リスクを十分に低減した合理的な判断だ」と認めた。

H3の初号機では新たに開発した第1段の主力エンジンは正常に動作した。問題が起きた第2段はH2Aロケットと共通部分が多い。H2Aは01年の初飛行以来、安全性の国際水準とされる95%を超す成功実績を誇っており、部品の信頼性が高いとみられていた。
報告書では、失敗の原因になった可能性がある第2段の一部の部品に関してH2Aやその姉妹機の「H2B」の打ち上げを通じて200個近くの実績があり、不具合が起きる可能性について確認が不十分だったなどと分析した。今後は、実績のある機器でも不具合の有無やH3への適合性を改めて確認する対策を取るとした。
JAXAのロケットを巡っては、22年10月にも小型の「イプシロン」6号機で打ち上げの失敗が発生している。専門家会議はこの失敗が起きた背景にも、実績が多い部品の確認不足があったとしていた。
今回の報告書ではH3とイプシロンの失敗の両方について「実績ある部品の開発時の取り扱いに関係する事象だ」と指摘。部品の設計の考え方や動作原理にも改めて立ち戻り、ロケットの信頼性向上に取り組む議論を進めるようJAXAに求めた。

政府の工程表では、H3の2号機の打ち上げは23年度中と見込まれている。26日の専門家会議終了後、JAXAの担当者は打ち上げの時期について「総合的に勘案して検討する」と述べるにとどめた。
H3の2号機では失敗を踏まえた対策を打つほかに、万一の事態に備えて実用の人工衛星は搭載しない。失敗した初号機には国が約280億円かけて開発した観測衛星の「だいち3号」を搭載していた。2号機には「だいち4号」を搭載する計画だった。
JAXAのロケットは03年11月にH2Aの6号機が打ち上げに失敗して以降、約20年間大きな失敗はなかった。2回の打ち上げ失敗を踏まえて、いかに飛行の再開につなげていくか。信頼性の確保に加えて、迅速に打ち上げを再開するスピード感も、今後の国際競争力を左右する。
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