トクリュウに捜査情報漏洩疑い 警視庁警部補を逮捕
違法に女性を風俗店にスカウトしていたグループに捜査情報を漏らしたとして、警視庁が同庁暴力団対策課の警部補を地方公務員法(守秘義務)違反の疑いで逮捕した。漏洩先の集団は「匿名・流動型犯罪グループ(トクリュウ)」とみられる。警察がトクリュウ壊滅へ総力を挙げるなか、捜査部門で重大な不祥事が発覚した。
警視庁が12日に逮捕したのは神保大輔容疑者(43)=東京都板橋区。逮捕容疑は4〜5月、全国最大規模の風俗スカウトグループ「ナチュラル」の関係先に同庁が設置していたカメラの位置情報がわかるような画像を、スマートフォンのアプリを通じてナチュラル側に提供した疑い。
カメラは、事件に関わったナチュラルのメンバーの行動を確認するため、警察が秘密裏に設置していたという。

捜査関係者によると、神保容疑者は2020年12月に暴力団対策課に配属された。遅くとも23年ごろから、同課でナチュラルが関係する事件の捜査に関わっていたという。25年4月以降は担当を外れていた。
ナチュラル内部ではメンバー間のやり取りなどの際、独自に開発した特殊なスマホアプリが用いられているとされる。神保容疑者はこのアプリを自らの端末にダウンロードし情報漏洩に使っていたという。
警視庁幹部は「グループ側と相当程度深いつながりがあった」とみている。神保容疑者が情報漏洩の見返りを受け取っていた可能性も視野に捜査を進める。同庁は容疑者の関係先を家宅捜索し、現金数百万円を押収した。
同庁は、漏洩された情報を巡るナチュラル内部での共有の実態や、漏洩が捜査に影響したかどうかも調べる。
ナチュラルは、ホストクラブで借金を抱えた女性らを全国の風俗店にあっせんしていた。23年ごろには約1500人のメンバーがいたとみられ、警視庁によると22年には約44億円の紹介料などを得たとされる。資金の一部は暴力団に流れた疑いも浮上している。
警視庁はナチュラルをトクリュウとみており、部門を越えて連携しメンバーの摘発を進めてきた。
警視庁の菅潤一郎・警務部参事官は12日、報道各社の取材に「全国警察を挙げて組織犯罪の検挙に取り組むなか、捜査に従事していた警察官による言語道断の行為。都民、国民の信頼を著しく裏切り心からおわびする」と述べた。
トクリュウへの漏洩、警察に衝撃
警察当局は近年、SNSを通じ離合集散する「匿名・流動型犯罪グループ(トクリュウ)」を治安上の脅威と位置づけてきた。捜査の主力メンバーだった警部補による情報漏洩が与える衝撃は大きく、原因究明と再発防止が急務になる。
全国の警察が逮捕したトクリュウとみられる容疑者約1万人を罪名別でみると、特殊詐欺やSNS投資・ロマンス詐欺に絡む罪名が全体の6割を占める。風営法違反は3%と多くはないが、違法な性風俗関連ビジネスもトクリュウの資金源の一つとされる。
近年は悪質なホストが恋愛感情に付け込み女性客に多額の売掛金を負わせ、支払いのため性風俗店で働かせる問題が顕在化した。店側からスカウトやホストに報酬を支払う仕組みは「スカウトバック」といわれ、違法風俗のあっせんの温床とされる。
警察がスカウトグループの摘発に力を入れるのは、得られた収益が別のトクリュウや暴力団に流れ、ほかの犯罪を助長する恐れがあるためだ。政府は6月に施行された改正風営法でスカウトバックを禁じ、罰則も設けた。
トクリュウが絡む特殊詐欺などの被害拡大を防ぐため、金融機関は不審な口座情報を警察と共有する取り組みを進めている。警察幹部は「社会全体でトクリュウ対策に取り組むなかで、裏切りに等しく衝撃だ。再発防止に手を尽くさないといけない」と話す。
警察当局は10月に捜査体制を再編した。警視庁にトクリュウ捜査の専門部署を設置し、全国の警察から来春までに約200人が加わる。同庁を「準国家警察」と位置づけトクリュウ中枢人物の摘発をめざすとしており、情報管理の徹底が求められる。









